所得税率

 さて、所得税率です。(前の日記からお読みください。)
 今、共和党と民主党の議論の的となっているのが、ブッシュが発効して今年末で期限切れとなる減税法。不景気の折からこの期間限定の減税を延長するという点では一致しているのですが、問題は年収25万ドル以上の高額所得者を減税から外すかどうかという点です。基本的にすべての税金を嫌う共和党は高額所得者を含む減税の全面継続、民主党は国家財政のために高額所得者の減税打ち切りを主張しています。共和党の主張としては、富裕層の減税は消費や雇用につながるということになっているんですが、今一つ説得力に欠けます。ですから、今回の選挙で共和党を支持した人でも、高額所得者の減税打ち切りについては賛同する人が多いと言われています。

 私がアメリカに来た頃、1980年代後半には日本の世間一般では日本はアメリカに比べて所得税が高いということになっていました。が、実際にアメリカの税金を払うようになって、その高さに愕然。日本と比べるとアメリカの税金は高額所得者には安くても低所得者には高かったのです。改めて調べてみると1986年に税法の大改編があって1987年度は、当時なんとかニューヨークで食べていける程度の年収3万ドルで35%、一方で最高税率38.5%なのです。ドナルド・トランプと私の税率がたった3.5%しか違わなかったわけです。
 同じく1987年の日本の累進課税率は年収300万だと20%、その上に8段階あって一番上は5千万以上の60%です。1000万で40%、1500万でだと50%ですから、なるほどその頃は大企業の駐在員なんかだとアメリカの税率のほうがお得だったわけです。
 で、80年代から累進課税の枠も税率も毎年のように変化しながら現在2010年の最高税率は、37万3650ドル以上の35%です。ですから、私は税率は収入に関わらず平等と言うのがアメリカの伝統なのだと思ってきました。
 これは既に何度か書いた事ですが、「無駄に使う金がありあまってるような大金持ちからは90%くらいの高い税金をとるべきだ」と言ったら、元夫に「サクセスをパニッシュするのは正しくない」と反論されたことがあります。大金持ちには程遠い元夫がそういう考え方をすることには驚きましたが、それがアメリカ人の取ったもん勝ちの発想なのであろうと納得もできたのでした。

 が、最近になってアメリカの連邦所得税率の変遷表を目にするチャンスがあって、驚愕しました。なんと、1950年代のアメリカの最高所得税率は90%を超えているじゃありませんか。
 それで、アメリカ連邦所得税率の歴史を調べてみました。(興味のある方はこちらで見られます。
http://www.taxfoundation.org/files/fed_individual_rate_history-20100923.swf
http://www.ntu.org/tax-basics/history-of-federal-individual-1.html

 20世紀初頭から連邦税率は上がったり下がったりしながら、第二次大戦中にぐっと高くなります。そして最も高いのが1950年代の90%台で、その後減少傾向に転じて60年代に70%台となり70年代は70%が続きますが、大幅な減税をしたのがレーガンで、1982年に最高税率は一気に50%まで下がります。レーガン減税では累進課税枠の上3つを廃止しているので、高額所得者ほど減税額が多くなるという仕組みです。
 そして1986年に大改編があり、それまで15以上あった累進枠が5段階に減り、最高税率が38.5%に、88年には累進枠2段階で最高税率は28%まで下がります。累進枠はシングルで年収約1万7850ドル、カップルで約2万9750ドル以上とそれ以下という累進課税ともいえないような状態になっています。
 つまり、私がアメリカに来たのは、そういうレーガンの金持ち優遇税制がどんどん進んでいる時期だったのです。
 その後、1990年に31%の高額累進枠(5万1900ドル以上)が増えて、クリントンになってさらに36%(11万5千ドル以上)と39.6%(25万ドル以上)の高額所得枠2つが加わります。
 そして、2001年が今問題のブッシュ減税。さらに2003年にも減税となり、現在の最高税率35%にいたっています。
 ちなみに現在シングルで年収3万ドルだと税率は25%、35%の最高税率枠は32万6450ドル以上です。年収3万ドルの場合の税率は20年前より低いですが、家賃も健康保険もはるかに値上がりして、今時年収3万ドルではとても食べていけません。

 景気対策はまず減税というのが年収25万ドル以上減税継続派の言い分ですが、皮肉なことにアメリカが一番上り坂で希望に満ちていた1950年代は最高所得税率が90%を超えていたし、絶好調だった60年代70年代だって70%だったのです。80年代以降の減税の歴史はアメリカの凋落の歴史と一致しています。
 最高税率が94%までいった第二次大戦中にルーズベルト大統領は「この国家の非常時には余剰収入はすべて勝利のための戦費として供出されるべきだ。アメリカ市民なら誰しも税引き後の収入が2万5000ドル(現在のインフレ率だと約32万3000ドル)を越えてはならない」と言ったそうです。
http://www.slate.com/id/2245781/
 今もイラクとアフガニスタンでの戦費は国家予算を圧迫し続けていますが、その分を金持ちに負担してもらおうなんて言う政治家は一人もいやしません。戦費は金持ちの税率を引き上げてまかなうというのは、まことに理にかなったやり方だと思うのですが。そういうシステムならイラク戦争もおこらなかったでしょう。

 さて、アメリカの所得税率の歴史が興味深いものだったので、日本の所得税率も調べてみました。そして、また愕然。高額所得者の税金が高い日本はアメリカほど拝金主義でも取ったもん勝ちでもないからまだまし、と事あるごとに思ってきたのに、日本もアメリカと同じ道をたどっていたのです。遅れて。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E#.E6.9C.80.E9.AB.98.E7.A8.8E.E7.8E.87.E3.81.AE.E5.A4.89.E9.81.B7

 たしかに私が日本を離れた1987年には最高税率60%でした。最高枠は年収5000万円以上です。が、89年には最高枠が2000万円以上税率50%となり、今や最高枠は1800万円以上税率40%です。1974年には8000万円以上75%まであったのに。この高額所得者減税の歴史も日本経済の凋落とリンクしてるように見えます。その関係性は逆で不景気だから減税なのかもしれませんが、それによって景気がよくなったとはとても思えません。格差の広がりがさんざん問題にされながら、この所得税率の歴史があまり語られないのはなぜなのでしょう。ともかくも日本にはまだ健康保険はある。日本にはアメリカのようにはなってほしくないと願うばかりです。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

“所得税率” への 2 件のフィードバック

  1. 私も、今税金を払う時期になり、疑問を覚えて、インターネットで検索してびっくりしています。日本のものを読むと、専門家の方でも、ちょっと違うのではないかと思われる投稿があったりして、あなたのものに救われた気がします。
    私は、こちらに89年に来ました。
    こういう事を話す相手が居ません。もし良かったら、ご連絡ください。

    1. コメントありがとうございます。私は88年にきているのでだいたい同じアメリカ歴ですね。税金でも医療でも日本がアメリカのあとをおいかけているのがとても不安です。今、当ブログで大統領選ウォッチを連載していますので、そちらもどうぞ。

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