アメリカ大統領選ウォッチ14

ヒラリーはバーニー支持者をとりこめるのか?

日本に行っていたので1ヶ月以上も間があいてしまいました。その間に共和党はトランプが大統領候補に決定。今週は民主党もヒラリーが予備選挙最後の大票田カリフォルニアを制して勝利を決めました。が、トランプは相変わらずトンデモ発言を続け、バーニーは相変わらず党大会まで戦い続ける姿勢をくずさず(理論的には党大会でデリゲートによる投票が行われるまで正式決定ではない)、両党とも落しどころがまだ見つかっていません。

ことに共和党はトランプの勝利が動かせないものとなってから、ますますの迷走を続けています。クルーズとケーシックが予備選挙を離脱した時点で、トランプが事実上の共和党の大統領候補となったわけですが、共和党幹部からは「トランプは支持しない」という声が続出。ジョージ・ブッシュ、ジェブ・ブッシュ、ジョン・ケーシック、ミット・ロムニーは党大会への不参加宣言。しかし、今となっては打つ手はなく、トランプは順調に勝利に必要なデリゲート数1237をクリア。ここにいたって、とうとう観念したのか、不支持または支持保留といっていた党幹部が、今月になって次々とトランプ支持を宣言しだしました。

なかでも世間を驚かせたのが、現在の共和党のリーダーにあたる下院議長のポール・ライアンのトランプ支持宣言です。

ryan

ポール・ライアンは共和党の若手ホープといわれていますが、この人はついてません。去年ジョン・ベイナーの後をついで下院議長に押し上げられた時点で既にババをつかまされた感がいっぱいだったのですが、今や共和党で最も苦しい立場に立たされています。そのポール・ライアンが何やらトランプと密談した後で「トランプは共和党のアジェンダの法律化に協力してくれるはずだ」と言ってトランプ支持を宣言したのです。

が、一方のトランプは、そんなことはおかいまいなく、またもや人種差別発言でメディアをにぎわすことになりました。トランプのビジネスの一つにトランプ・ユニバーシティという名称からすでにあやしげなビジネスがあるのですが、そのビジネスが詐欺だと訴えられていたのです。現在その訴訟の最中ですが、トランプは裁判官、Gonzalo Curielが気に入らなかった。「俺は反メキシコだと思われているのでメキシコ人の裁判官にはフェアな裁判はできない」と言い出したのです。
ちなみにこの裁判官はインディアナ州生まれのメキシコ系アメリカ人です。メキシコ人ではありません。

この発言にあわてたのが、トランプ支持を宣言したばかりの共和党幹部の面々です。不適切発言についてメディアに問い詰められ火消しにおおわらわとなりました。が、当の本人は「俺はほんとのことを言ってるだけだ」と火に油を注ぎまくっています。ポール・ライアンとの間でどういう話し合いがあったのかはわかりませんが、トランプがトランプでなくなることは有り得ないというのが早くも明らかになりました。

これは人種差別発言ではないのか、というメディアの追求に、最初は「不適切であるがゴニョゴニョ」と口を濁していた共和党幹部も、収拾が付かないとみて人種差別発言である事を認めはじめました。そして、これを機にトランプ不支持を明言する共和党議員も現れだしました。
ポール・ライアンやミッチ・マコーネル(上院の共和党リーダー)のような共和党役員はトランプがどんなにろくでもないことをしようと、立場上トランプ不支持を宣言するわけにはいきません。人種差別発言をするような候補者を大統領候補として支持できるのか、という記者の質問への答えは「クリントンに勝たせるわけにはいかない」です。つまり、積極的にはおすすめできない候補というわけです。

今、共和党の政治家はみな、トランプ支持にまわるリスクか、不支持にまわるリスクかどっちをとるかをせまられています。まだまだ11月の大統領選挙までは一波乱も二波乱もありそうです。

一方の民主党は、ヒラリーが勝利に必要なデリゲート数を固め、民主党候補となりました。初の女性大統領候補という華々しい見出しが出ても、なんだか世間は冷めています。ヒラリー支持者とバーニー支持者の溝は一向にうまる気配はなく、民主党も本選挙にむけての一本化ができずにいます。本選でトランプに勝つためにはバーニーの支持者を取り込むことが必須です。この先の国会議員選挙を考えても、ここでバーニー支持の若年層が離れていくのはなんとしても避けたい。が、もともと反エスタブリッシュメントのムーブメントとして支持を伸ばしてきたバーニー陣営の民主党本部との確執は選挙戦を通じてさらに深くなっています。

それが一気に噴出したのが5月のネバダ民主党州大会です。ネバダ州の予備選挙は2月にヒラリーが勝利しているのですが、ネバダ州のデリゲートの配分の仕方は複雑で、最終的なデリゲート獲得数は州の党大会で決定されます。この州党大会を運営したネバダ州民主党代表のロバータ・ランゲのやり方が不公平だとして、バーニー支持者が大暴れ。ランゲに脅迫メールが送られる騒ぎになりました。実際に不公平であったのかどうかは賛否両論があるところなのですが、実はバーニー支持者の不満はこれに始まったことではありません。民主党執行部が何事もクリントンに有利なように運んでいるということは予備選挙が始まったころから指摘されていました。

たとえば、討論会の日時は常にフットボールの放送時間の裏など、視聴率が低い時間帯に設定されていました。これは、既に政治的知名度のあるエスタブリッシュメントサイドの候補、つまりヒラリーに有利になるやり方です。こうした民主党執行部のさりげないヒラリー援護をしていた中心人物とされるのが民主党委員長のデビー・ワッサーマン・シュルツです。

wasserman

そのデビー・ワッサーマン・シュルツがネバダ州の騒ぎに関してバーニーとその支持者を非難しました。バーニー支持者もだまってはいません。バーニー以前からリベラル派には評判の悪かった人だけに、公平であるべき立場にありながら職務を果たしていない、と一気に民主党の悪役となり、委員長おろしのキャンペーンまで始まりました。デビー・ワッサーマン・シュルツはスケープゴートにされただけだという意見もあります。が、この人がヒラリーのガールズクラブのメンバーであることは間違いありません。そして、おそらくネバダ州のロバータ・ランゲも。

かつて、職場に進出した女たちは権力をにぎる男たちの非公式なネットワークをボーイズクラブといって非難していました。おそらくボーイズクラブは今も健在ですが、男女平等が実現してめでたくガールズクラブもできたわけです。デビー・ワッサーマン・シュルツも「女どうしは助け合うのが当然だ」と説教をたれたオルブライトも、外から見ればガールズクラブだってボーイズクラブと同じくらいアグリーに見えることに気付いていないのです。初の女性大統領候補という謳い文句がどこか釈然としないのも、女性を含めた多くの人々にとって、それがもう一つのエスタブリッシュメントにしか見えないからです。

さて、敗北がほぼ決定したバーニーですが、相変わらず選挙戦を退く気はなく、断固として党大会まで持ち込む姿勢を貫いています。通常の予備選挙なら負けが見えた時点で降りるのですが、逆転勝利は考えられない状態でバーニーが何を望んでいるのか、またヒラリーと民主党がバーニーに何をオファーするのかが注目の的となっています。74歳という年齢からいってバーニーに次はありません。そして副大統領ということも考えがたい。しかし、なんらかの形でバーニーの政治主張をとりいれないとバーニー支持者は納得しない。バーニー支持者にそっぽを向かれては本選挙が危ない。

まず民主党執行部がオファーしたのは党の基本方針を決めるプラットフォームコミッティ(基本方針委員会)のメンバーの指名権です。規定では民主党委員長(デビー・ワッサーマン・シュルツ)が15人の委員全員を指名できるのですが、デリゲートの獲得比率に応じてヒラリーが6人、バーニーが5人、シュルツが4人という異例の形になりました。これによって、バーニーの主張も民主党の基本方針に反映されるというわけです。民主党から見ればかなりの譲歩だと思いますが、これによってもバーニーを撤退させることはできませんでした。果たしてバーニーはどこまで民主党をプッシュできるのか、民主党は党大会後にバーニーをどう扱うのか。当面はそれが民主党の注目ポイントです。
実は、ここに来てもう一人注目を集めている民主党の政治家がいます。民主党女性議員の中で唯一ヒラリー支持を表明していなかった上院議員のエリザベス・ウォーレンです。

warren

この人は民主党の急進派として人気のある政治家で、リベラルな政治家としては去年まではバーニーより有名でした。そのエリザベス・ウォーレンが今週ヒラリー支持を表明したのです。そして民主党のさまざまなイベントでトランプ攻撃のスピーチを展開し始めました。

このスピーチもなかなか面白いのですが、ひょっとしてヒラリーの副大統領候補になるのでは、ということでも注目されています。そうです。女の大統領に女の副大統領。エリザベス・ウォーレンはバーニーの支持者にも人気がある。女、女は有り得まい、と普通なら考えますが、だからこそプログレッシブなイメージをアピールできる。一応、筋は通っています。

大統領候補が決まった今、とりあえず次の注目は副大統領選びです。

広告