トランプ大統領4:トランプ政権はいつまでもつのか?

大統領就任から3か月。弾劾の種は山盛りですが、弾劾される気配はありません。それは弾劾を訴追する下院で共和党が圧倒的多数を占めていることも要因の一つですが、実は民主党や無党派リベラル層からも弾劾を望む声はさほど強くありません。それはトランプを弾劾しても、そのあと大統領になるのは副大統領のマイク・ペンスだから。

マイク・ペンスはトランプに比べれば常識的な政治家といえるかもしれませんが、時代錯誤といってもいい保守派です。共和党大統領候補の予備選挙を勝ち抜いたトランプが副大統領候補さがしで主流派の政治家に断られまくったあげくに連れてきたのがペンスです。インディアナ州知事だったペンスはReligious Freedom Restoration Actという「宗教上の理由でLGBTを差別することを認める」州法を発効させたことで知られています。この時代に逆行した州法は、大企業やスポーツイベントの大ボイコットを招き、結果的に撤回を余儀なくされました。しかし、州の経済に打撃を与えたペンスは不人気で再選が危ぶまれていました。そもそもがトランプでもなければ副大統領になんて指名されるはずのない政治家だったのです。

LGBTだの中絶だのという社会問題については本音はどうでもいいと思っているトランプと違い、ペンスが大統領になればまっしぐらに超保守路線です。しかも党の方針なんてへとも思っていないトランプと違って、党の方針に従順なペンスが大統領になれば、上下院で過半数をとっている共和党はやりたい放題。スムーズに保守化路線が進んでしまい、LGBT差別OK、中絶禁止というとんでもないことになりかねません。たとえロシア疑惑によってペンスまでが失脚したとしても、その次に大統領になるのは下院議長と決まっています。つまりポール・ライアンです。もともとティーパーティ系の政治家として勢力を伸ばしてきたポール・ライアンはオバマケア廃止を悲願とし、あらゆる福祉縮小を主張する徹底した自己責任資本主義原理主義者です。こちらも民主党にとっても無党派層リベラルにとってもペンス同様にトランプより都合が悪いのです。

民主党と無党派リベラルにとっては、ともかくこの先4年間をなんとかやり過ごすしか方法はありません。反対運動を続け、2018年の中間選挙でせめて上院の過半数を奪回し、次回大統領選の2020年まで、できるかぎりトランプと共和党の望む政策が通らないようにするというのが唯一の戦略です。つまり、現状で考えられる最良の形とはトランプに何もせず、何もクライシスを起こさずに4年間をまっとうしてもらうことです。

一方の共和党主流派の政治家にとっては、実はトランプを弾劾して、言うことをきくペンスを大統領にしたほうが都合がいい。ポール・ライアンならもっといい。が、トランプを弾劾するということは、トランプサポーターを敵に回すということです。そうすれば議員としての自分の再選が危ない。トランプの支持率は30%代と史上最低を記録していますが、これを共和党支持者だけに限ると、まだ70%を超えています。トランプ支持者にとって主要メディアの流すニュースはトランプの言う「フェイクニュース」なわけですから、ロシア疑惑や収賄スキャンダルの証拠があがったところでトランプ支持者が急激に減ることはないでしょう。今の状態でトランプの弾劾を主張できるような共和党の政治家はいません。したがって共和党主流政治家にとっては、向こう4年間なんとかトランプの機嫌をとりながら党として通したい政策を進めていく、ということが最善の策です。

つまり、共和党、民主党、無党派層、それぞれの思惑でトランプ4年間の続投はやむなしとなっているので、よほどの事態の急展開がないかぎり弾劾はあり得ないのです。

ここにきて、トランプは外交方針のまったくない無暗な爆撃や脅しで世界を震撼させていますが、自分の国が戦場になった経験のないアメリカは他国に対する軍事行動に対して驚くほど鈍感です。そして多くの人がいまだに正義の攻撃というものを観念的に信じています。アメリカ自体に相当なダメージが出ないかぎり、トランプの軍事行動が「よほどの事態」とアメリカ人に自覚されることはないでしょう。

トランプ大統領3「今何が起こっているのか」

トランプ大統領下で起こってくる問題は、連邦裁判官の任命権だの健康保険の先行きだの、誰でも予想できる問題が山のようにあるのですが、選挙からわずか1週間もたたないうちに、先の問題を云々するどころではなくなってしまいました。それはもう引き継ぎ準備1日目から、次々とありえない問題が勃発するからです。

というわけで「これから何が起こるのか」は、また先送りで、とりあえず「今何が起こっているのか」です。

日本では安倍総理がいち早くトランプと会見を行ったことが大きなニュースになっていました。会見前夜から、他国の首脳に先駆けて日本の首相が一番にトランプとの会見をとりつけた、と日本のニュースで報じられていましたが、同じころにアメリカで今一番人気のある政治番組「Rachel Maddow Show」では、日本の首相との会見が別の意味で取り上げられていました。なんと、会見が翌日に迫っているにも関わらず日本側に、会見の場所も時間も出席者も知らされていないというのです。そのうえ、日本側は誰に問い合わせればいいのかもわからなくて困っていると。

これは別に日本が軽視されているという意味ではありません。ことほどさように誰もがトランプと連絡がとれなくて困り果てている、外国の首脳ですらこの有様というトランプチームのディスファンクションぶりの例として挙げられたのです。本来なら新大統領はできるかぎり早く各部門からブリーフィングを受けなければなりません。国務省からのブリーフィングを受けなければ、外国の首脳との電話会談だってできないはずなのに、トランプはつかまらない。

それだけではありません。主要な役職を早急に任命して、その引き継ぎもしなければならないのに、それも一向に進んでいない。現政府関係者の不安は増すばかり、といった報道が相次いでいるところにポストされたトランプのツイッターがこれ。

「Very organized process taking place as I decide on Cabinet and many other positions. I am the only one who knows who the finalists are!」

「閣僚選びはすべて順調。ファイナリストを知ってるのはオレだけだ!」って、この男、まだ大統領選をリアリティショーと勘違いしています。首相が代わっても各省庁の首がすげ代わるだけで官僚はそのままの日本の制度と違って、アメリカでは大統領が代わると官僚からホワイトハウスのスタッフまで全員が総取り換えです。何千人というポジションを決めなければならないのに「オレだけ」でどうするって話です。Very organizedなわけがありません。

そもそも誰も予想だにしなかったトランプ当選。トランプ自身だって本気で大統領になるつもりなんかなかったに違いありません。本人だって周囲だって当選後の実務なんて本気で考えていたわけがないので、スムーズにいくわけがないのです。

そのうえ、選挙戦中にトランプの三銃士と呼ばれ、トランプがどんなトンデモ発言をしようが無理やりな言い訳をし続けたクリス・クリスティ、ニュート・ギングリッチ、ルドルフ・ジュリアーニは、プロの政治家とはいえ揃いも揃ってあまりにも問題をかかえすぎた崖っぷち野郎ばかり。忠誠心を大切にする(らしい)トランプがいくら三銃士を閣僚入りさせたくとも、そうは簡単にはいかない。

そこにもってきて、政権移行チームをリードするはずだったクリスティがいきなりチームから外され、クリスティの息のかかったスタッフは全員辞任というクリスティ・パージ。原因は、選挙間際のトランプのセクハラスキャンダルで弁護しなかったからとも、クリスティが検事時代にトランプの娘婿の父親を牢屋に送ったからともいわれます。何が本当の理由かはわかりませんが、まるでマフィアの報復劇。クリスティの方だって、ブリッジゲート・スキャンダル(アメリカ大統領選ウォッチ6「共和党がまじでやばい」参照)で選挙と前後して部下に有罪判決が下り、本人が訴追されないことが不思議な状態、とマフィア度ではどっこいです。

そして、クリスティのかわりにチームリードとなったのは副大統領のマイク・ペンス。が、このマイク・ペンス、政権移行チームをリードするのに必要な書類のサインを忘れ、またそこで遅れをとる。いまさら驚くことでもありませんが、チームの誰も実務を把握している人はいない模様です。それだけならまだしも、チーム内には通常ならありえないようなエグい面子が目白押しで、それがいちいち物議をかもす。

中でも一番問題視されたのが選挙アドバイザーからトランプ政権の戦略アドバイザーとなったスティーブ・バノンです。右翼の白人至上主義者として知られる人ですから、いくら保守の共和党の大統領だって、普通ならわざわざチームに入れたりはしません。が、そこが「忠誠心を大切にする」トランプです。

そして、政治のアウトサイダーだから献金やしがらみのない、国民のための政治ができると豪語していたはずなのにチームはロビーストだらけ。政治家に裏から働きかけていたロビーストが、そんなまどろっこしいことしなくても直接仕事ができるという最高にインサイダーフレンドリーなチーム。ロビーストまみれと批判されたのに慌てて、ペンスはロビーストを一掃すると宣言したのですが、もちろんそんな形ばかりの首のすげかえでロビーストの影響がなくなるわけはありません。世間様が信用せんわ、と言いたいところですが、トランプを選んじゃった世間様が、いつ気づくのかはわかりません。

トランプチームの問題はロビーストによる大企業の営利だけではありません。トランプチームには、トルコだのロシアだの問題になりそうな国と関わりをもっている「コンサルタント」がごろごろいます。そして、何よりも大きな問題なのはトランプ自身です。トランプ・エンタープライズそのものが大統領としてconflict of interest(利益相反)になります。なにしろトランプの名前のついたビルやらゴルフ場やらが国内ばかりでなく、外国にもたくさんあるのです。もう汚職の種はありまくりです。

そもそもトランプは60年にわたる大統領候補の中で、唯一税金申告書を公開しなかった候補です。大統領候補になれば税金申告書を申請して財政的な公正さを証明するのは常識とされてきましたが、トランプは相次ぐリクエストにも関わらず最後まで拒否し続けました。法律的な義務ではないので、それでも押し通せたわけです。実は違法すれすれの税法の抜け道を使って、この10年まったく連邦税を払っていない(今後数年も払わないですむ)ということがリークしても、しゃあしゃあと「それはオレが頭がいいからだ」とぬかしていました。今後も法律を破っていない(と解釈できるものなら)なんでもあり、に決まっています。

こんな形の国際企業の経営者が大統領になったことはアメリカの歴史上ありません。歴史上ない、ということはどういうことかというと規制する法律が整っていないということです。想定外ですから。もちろん、お金持ちの大統領はこれまでだっていました。というか、大統領になる時点である程度の財産はあるのが普通です。そこで利益相反を未然に防ぐために、歴代の大統領は財産を白紙委任信託(blind trust)にしてきました。白紙委任信託とは、財産を第三者に託して、本人にはその信託の状況をまったく不明な状態にするということです。

が、トランプが主張するのはトランプ・エンタープライズは「3人のこどもたちにblind trustとして託して経営させる」。子どもは第三者ではありません。ですから、それではblind trustではないし、利益相反の防止効果はまったくないわけですが、トランプとそのチームはそれをblind trustと言い続けています。そればかりではありません。その3人のこどもたち、ドナルド・ジュニアとエリックとイヴァンカ、およびイヴァンカの夫、ジャレット・クシュナーは政権移行チームのメンバーでもあります。つまり政府の要職の任命に関わる子どもたちが、政権移行後はトランプ・エンタープライズを経営するというわけです。

そもそも自分の家族を政権移行チームに入れるということ自体が前代未聞です。が、禁じる法律がないのでできてしまいました。白紙委任信託にすることも法律で義務化されているわけではありません。これまですべての大統領が常識として行っていたのは、わざわざ疑いを招くような、悪くすれば弾劾につながりかねない状況を放置すればろくなことにならないと信じていたからです。

トランプの家族経営は政権移行チームだけにとどまりません。トランプは娘婿のジャレット・クシュナーをホワイトハウスのスタッフにすると主張しています。これには、家族をAgencyとして雇うことを禁じたanti-nepotism lawがあるのですが、Agencyの解釈が微妙で、無給であれば法的には可能になってしまうというのです。しかもジャレット・クシュナーは政治家でもなんでもありません。その妻のイヴァンカが兄2人と一緒にトランプ・エンタープライズの経営を任されるというのですから、もうありえないくらいうさん臭い。とても先進国の近代国家の出来事とは思えません。

さあ、ここでまた「どこの国の首脳より早く」トランプと会談したわれらが安倍総理です。安倍総理はトランプとは気が合うかもと言っていたそうですが、それはそうでしょう。「美しい国、日本」に「make America great again」。中身のないスローガンのコンセプトまでなんだかかぶってます。この会見はアメリカでも話題になりました。内容ではありません。そこにイヴァンカとジャレット・クシュナーが同席していたからです。

外国の首脳との会見の場に政府と無関係な家族を同席させるなんてありえないというわけです。情報の機密性の問題はもとより、日本がトランプ大統領の政策に影響を与えるために、イヴァンカ・トランプの日本でのビジネス展開に進んで便宜を図るといった可能性だってあるわけです。そもそもトランプ・エンタープライズそのものの扱い自体も問題です。例えばトランプタワーを日本に作ろうと思えば、日本政府とのパイプがあれば有利に決まっています。

そんな物議をかもすのがわかっているような会見写真をトランプチームは、なぜわざわざ公開したのか。共和党内でも反対の多いであろうジャレット・クシュナー採用を既成事実にしようとしたのか、それともただ状況を理解していなかったのか。理由はわかりません。が、この会見の相手となった日本がどう見えるかというと「微妙」。少なくとも「日本の外交が巧みで、各国を出し抜いて新政権とのアメリカ外交でリードした」というふうには絶対に見えません。おそらく他の国は今は様子を見ているのです。

まだまだ本当にトランプ政権がどう実現するのかさえ、見えていません。事態が現実味を帯びてくるほどに、トランプは本当は大統領になんてなりたくないに違いないと思えるばかりです。ビジネスを本当のblind trustにするくらいなら、大統領をおりたほうがましと思っているに違いありません。陰でペンスに代わってくれと言っていても不思議はありません。

先週は、新たに司法長官に指名されたジェフ・セッションズが物議をかもしました。1986年にレーガンに連邦判事に指名されたものの人種差別的発言で上院の承認を得られなかったという経歴の持ち主だからです。今よりよほど社会が保守的だったはずの1986年の時点で承認を得られなかった人が今よみがえるというのですから恐ろしい話です。

一方で共和党内の反トランプの急先鋒だったロムニーが国務長官に指名されるかもという説も浮上しています。あれだけトランプに冷たかった共和党エスタブリッシュメントは、トランプ当選がまるで自分たちの手柄であるかのように大はしゃぎです。果たしてトランプは共和党エスタブリッシュメントの傀儡政権となるのか。独自路線を貫くのか。そもそも4年をまっとうできるのか。もしトランプが弾劾されたとしても、その後釜として大統領になるのは副大統領のあのマイク・ペンスですから(アメリカ大統領選ウォッチ15「副大統領はどうやって決まるのか」参照)、ある意味トランプより悪い。リベラルに逃げ場はありません。

トランプ政権で、これから何が起こるのかは今回の選挙で圧倒的な力を持った共和党がどうやってトランプと折り合っていくのかにかかっています。そして長期的には、惨敗民主党に2年後の中間選挙でせめて上院を取り戻すまでに立ち直ってもらわなければならないのですが、両党とも信じられないくらい変わっていません。これだけ天地を揺るがすような大統領選のあとでも組織というのは絶望的に変わらないものです。それについては次回に。

トランプ大統領2「トランプに投票したのは誰だ?」

トランプに投票した人たちの出口調査の分析やインタビューが続々と報道され出したので、前回の「悪夢はなぜ起こったのか」の補足です。「これから何が起こるのか」は次に先送りします。

トランプ支持者のデモグラフィックを見ると一番顕著なのが人種と性別です。トランプ支持者の中心は高卒以下のブルーカラー白人男性と言われていましたが、学歴や社会的地位を除いた白人全体でも58%がトランプ支持(ヒラリーは37%)なのです。他の人種ではすべてヒラリーが圧勝なのに白人だけがトランプ支持が突出しています。

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男性はトランプ支持、女性はヒラリー支持という男女差は刷り込み済みですが、多くの人を驚かせたのは白人女性に限ると53%がトランプに投票していたことです。対するヒラリーへの投票は43%です(その他もあるので100%にはならない)。学歴を高卒以下にかぎると62%がトランプ支持。大卒以上ではヒラリー支持が上回りますが、51%と約半数で、わずかな差しかありません。女性全体のヒラリー支持が高くなっているのは、マイノリティの女性が圧倒的にヒラリー支持だからです。

トランプがマイノリティに弱いというのはずっと指摘されていましたが、マイノリティに強いはずのヒラリーはオバマほどにはマイノリティをとれませんでした。ラティーノが激増する中、マイノリティなしでは選挙に勝てないというのがヒラリー当確予想のよりどころでもあったのですが、マイノリティは少数だからマイノリティなのです。

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将来はともかく2016年時点で投票権を持つ総人数277,778,000人中、白人は156,084,000と圧倒的マジョリティを占めているので、白人を制した候補がまだ圧倒的に強いという当然の結果です。

大統領選ウォッチ16で紹介した「もし女だけが投票したら」(上)「もし男だけが投票したら}(中)というシミュレーション・マップと比べると、実際の選挙結果(下)が「もし男だけが投票したら」に近い形になっています。つまりトランプは予想を上回る女性票をとったわけです。

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予想外のトランプ勝利は、この白人女性票によるものが大きいと指摘されています。しかし、トランプ大統領誕生に絶望しているクリントンに投票した女性たちには白人男性はともかく同じ女性がトランプに投票するなんて到底信じられません。なんていうことをしてくれたんだという怒りの声もあちこちにポストされています。この選挙は人種や宗教だけでなく女性の分断も表面化させました。
トランプサポーターの女性というと低学歴定所得と思いがちですが、大卒の白人女性も半数近くがトランプに投票しているわけで、決して低学歴低所得者層だけでトランプが勝ったわけではありません。むしろ逆です。

投票者全体の内訳を年収別でみると、世帯年収5万ドル以下では圧倒的にヒラリーが強く、それ以上の年収でトランプが勝っています。中でも一番差をつけているのは一番のボリュームゾーンである年収5万ドル以上10万ドル以下(約500万~1千万円)の中間所得層です。

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つまりトランプに投票したのはトランプに騙された無教養な貧乏人ばかりではないということです。むしろ本当の貧乏人は正しい選択をしているわけです。年収20万ドル以上の上位5%の高額所得者がトランプを支持するのは理論的に理解できます。トランプは富裕層の減税や相続税の廃止といった金持ち優遇政策を公約しているし、口では貧乏人の味方なんていったって、実は金持ちクラブのお友達であることは金持ちには明白だからです。

が、理屈で理解できないのは年収5万ドルから10万ドルという中間層のトランプ支持です。年収五百万から一千万円といったら結構な高収入と思うかもしれませんが、生活費の高いアメリカの郊外や都心部では家族でかつかつで暮らせる収入です。つまりそこそこの学歴もあって今はそこそこの仕事もあるけれど、何かあったらすぐに本格的貧乏に転落してもおかしくない層です。ヒラリーと民主党の政策だと最も経済的な恩恵が大きいはずの収入層なのです。
この中には絶対にヒラリー支持と見込まれていて実はトランプに投票した郊外の白人女性層もいるし、工業地帯で失業の危機にさらされている工場労働者もいるはずです。この人たちがなぜトランプに投票したのかという理由はメジャーなメディアからいろいろな記事が出ています。

トランプが解決できるとは信じているわけではないけれど、これまでオバマも何もしてくれなかったから、何もおこらないのがわかっているよりは少しでも可能性がある方にかける、という切羽つまった理由もあれば、Ivanka Voterのように「こいつらほんとにバカだ」と頭をかかえたくなるような理由もあります。Ivanka Voterとは「イヴァンカのようにクラッシーな娘を育てた」トランプだから投票するというイヴァンカ・ファンの女性層です。Ivanka Voterは比較的裕福な郊外に住む白人女性と言われ、トランプを支持していることを人には言いません。それはトランプに投票するといえば「人種差別主義者」だといわれかねないし、いろいろなお付き合いにひびが入るからです。まさに典型的な隠れトランプ。

最後にもう一つ、無視できないデモグラフィックが年齢層です。メレニアル世代はトランプ嫌いと言われていましたが、出口調査でもその通りの結果が出ました。

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結果は見ての通り。バーニー支持の若者が第三党に投票したり投票に行かなかったのがヒラリーの敗因とも言われていましたが、これを見れば若者に罪はない。たしかに第三党への投票も多いけれどヒラリー支持が圧倒的です。トランプを当選させたのは53%がトランプに投票している45歳以上の中高年です。この代償を支払っていくのが若い世代だということを考えると本当にかわいそうです。

トランプ大統領1「悪夢はなぜ起こったのか」

アメリカ大統領選は悪夢のような結果になりました。誰もが予想だにしなかったトランプ大統領の誕生です。積極的にでもネガティブチョイスでもヒラリーを支持していたアメリカ人、つまりトランプはありえないと思っていたアメリカ人(および米在住外国人)はいまだにショックから立ち直れていません。立ち直れる気もしません。それくらい絶望的な結果です。

11月8日の選挙日、7時ごろに仕事を終えてニューヨークタイムズの選挙サイトを見ると、開票が始まった州はどこもトランプが若干リードしていました。なんだか嫌な感じはしたのですが、その時点ではヒラリーの勝利確率はまだ80%を超えていました。が、テレビの前で選挙速報番組を見ているうちにどんどん状況が変わり、9時ごろにはトランプ勝利の確率が90%を超えました。そして11時頃にヒラリーの負けがほぼ決定的になるまで、9月11日のニューヨークテロの中継を見ていた時に匹敵するような「これからどうなってしまうんだろう」という恐ろしい不安感を感じていました。

嫌われ者合戦とはいえ、ほとんどの人が予想していたのはヒラリーが勝って、初の女性大統領が誕生して、まずはめでたいという結果でした。あちこちで選挙観戦パーティが行われていましたが、それは想定内の結果を予想してのこと。どの世論調査でも、どのメディアでもトランプに勝ち目なしとしていましたし、ろくでもない選挙戦が終わることにほっとしていたのです。が、ほっとするどころか、ニューヨークはどこもまるでお通夜のようになってしまいました。

今回の選挙は、選挙人獲得数ではトランプ(290人)がヒラリー(228人)に勝っていますが、票獲得数(popular vote)ではヒラリー(60,274,974票)がトランプ(59,937,338票)に勝っているというゴア対ブッシュの時と同じ結果になりました。アメリカ人の過半数がトランプを支持したわけではないのです。こういう結果になるのは南北戦争時代の遺物である選挙人制度のせいです。各州の選挙人獲得が獲得票の比率ではなく勝者全取りになっているので(アメリカ大統領選ウォッチ8「ニューヨークもLAもかやの外」参照)、州の90%をとって圧勝しても51%で辛勝しても一つの州で獲得できる選挙人数は同じです。また、赤(トランプ)と青(ヒラリー)で色分けされたマップを見るとトランプ圧勝のように見えますが、実は大都市圏をかかえる東海岸や西海岸各州、イリノイ州などで圧勝しているヒラリーのほうが全米での獲得票数は多いのです。選挙人制度のおかげで、大統領選挙はいつでもスイングステート(共和党と民主党が拮抗する州)に向かってお祈りするしかないという無力感を味わっているニューヨークやカリフォルニアの住民は余計にやりきれない思いです。そして、東海岸や西海岸の民主党盤石のブルーステートの大多数の住人にとって、トランプ支持者がマジョリティを占める州はまったく理解できない存在です。

ヒラリーの勝ち目がなくなってきたころから、選挙速報番組はどの局も、なぜ世論調査が揃いも揃ってここまで予想を外したのか、という議論に終始していました。口には出さなくても事前にこんなに接戦だとわかっていたら、これが防げたかもしれないということは多くの人が感じたはずです。つまりヒラリー陣営もヒラリー支持(反トランプ)者もトランプ支持者をみくびっていたのです。白紙投票や当選の見込みのない第三党候補への投票といったプロテスト投票の多くは、ヒラリー楽勝という前提に立っているはずなので、トランプ勝利という危機感があればヒラリー票になったかもしれません。勝敗を決めたフロリダやミシガン、ペンシルバニアなどは、どこも1~2%差の大接戦でしたから、プロテスト投票がなければ、あるいはもう少し多くの人が投票に行ってくれれば勝てた可能性はあります。

世論調査が大きくはずれた理由としては、トランプ票にはこれまで投票したことのなかった人の票が多かった、とか調査ではクリントン支持と答えながら実はトランプに投票した隠れトランプサポーターがいたから、など色々あげられていましたが、要するにこれまでの調査メソッドが使えなくなっているということです。それは大手メディアが流し続けた反トランプのメッセージがまったく伝わらなかったのと似ています。伝わらないのはマスメディアだけではありません。ネットの場合は余計に伝わりません。受け手が聞きたい情報だけにアクセスできるのがネットの本質だからです。

トランプを当選させたのは現代版のドブ板選挙です。大嘘を含め、支持者に受けそうなセンセーショナルな内容をまめにツイッターで発信していたトランプは、ヒラリーから「明け方の3時にツイートするなんて」とバカにされていましたが、あれはネット上のドブ板選挙だったんだな、と今にして思います。そしてネットのドブ板活動を拡散させたのは本物のドブ板、口コミやピアプレッシャーです。ニューヨークのようなブルーステートに住むトランプサポーターは隠れトランプサポーターとなるしかありませんが、真ん中のレッドステートにはトランプサポーターがあふれかえっていたはずだし、スイングステートにも多くのトランプエリアがあったはずです。アメリカは大都市中心部を除いて社会経済的な地域による住み分けがはっきりしているので、同じ州内でも両者の支持者が均等に拡散しているわけではありません。つまり誰もが自分のサイドの情報バブルの中に住んでいるのです。

もちろん、トランプ支持者へのインタビューはどこの局でもやっていました。トランプを支持する理由をきかれて「アメリカがモスリムになるのを防ぎたい」とか「ヒラリーに我々の銃を持つ権利を取り上げられないため」とか、頭おかしいんじゃないのかと思いたくなるようなことを答えている。でなければ「安い健康保険がほしいし、収入をあげたい」ともっともな要望ですが、何ひとつ具体策を挙げていないトランプにそれが可能だとほんとに信じてるのか。馬鹿じゃないのか、としか思えない。その発言をさせている空気感というのがわからないのです。外国に行って、一つ二つ質問してその国民を理解しようとするようなものです。

トランプが勝った要因の根本はトランプ支持者には熱意があって、ヒラリーには熱意のある支持者が少なかったからです。トランプランドのトランプサポーターはさそいあって、これまで選挙に行ったことのない人まで一緒に投票にいったでしょうが、ヒラリーにはそういうサポーターはいなかった。それはヒラリーが予備選挙のときから引きずっていた問題で、若い世代に熱狂的に支持されたバーニーに比べても、その差は歴然でした。バーニーだったらトランプに勝っていたでしょう。共和党に比べれば、まだエスタブリッシュメントの崩壊度が軽かった民主党は、その組織力でバーニーブームをねじ伏せてヒラリーに勝たせることができてしまったのも結果的には災いでした。

さらにバーニーに勝った後、その支持者であった若い世代の気持ちをなえさせてしまったのもヒラリーの次の敗因です。ウォールストリートと戦うリベラル派のスター、エリザベス・ウォーレンを副大統領に選べば、バーニー支持者の若者の熱気を取り込んで勝てたかもしれません。が、ティム・ケインのような保守的なエバンジェリカルを副大統領に選んだことで、ヒラリーはますますプログレッシブ路線から遠のいた印象を与えてしまいました。「そうか、予備選挙や党大会ではプログレッシブな路線を進めるといっていたけど、勝ってしまえばこっちのもので、またエスタブリッシュメント路線を進むんだな」と感じたバーニー支持者は多かったはずです。熱心なバーニー支持者はトランプ嫌いでも突出していますからトランプには投票しなかったでしょうが、予備選挙でバーニーのためにしたようなドブ板運動をする熱気はヒラリーには到底もてなかったのです。

そして、もう一つの原因がアメリカが女嫌いのマッチョ文化の国だということ。アメリカのマッチョ文化がいかに根強いかは、2008年にヒラリーがオバマに予備選挙で負けたときにも感じましたが、今回も改めて感じました。ヒラリーが楽勝と予想されていた裕福な郊外地区の多くでトランプが予想以上に票を集めたのも、口には出さずにトランプに投票した「隠れトランプ」がかなりいたということです。ヒラリーには問題もいろいろありますが、トランプの問題に匹敵するようなものではないし、何よりポジティブな実績もあります。正当な理由なくあれだけ嫌われるのはヒラリーが女であることと無縁ではありません。

一方、マッチョ思想をもたない若いバーニー支持者には、ヒラリーはずるいエスタブリッシュメントに見えてしまいました。ヒラリーの世代の女性たちは子供たちを誰でも平等に扱うという思想で正しく育ててきて、子供たちも期待に応えて育ちました。そして、自分はマッチョ文化の根強いアメリカのボーイズクラブの中であれこれ妥協しながら生き抜いてきたら、それが「女であること」が差別の対象にもならないけれど、プレミアムにもならない若い世代からは体制派に見えるだけというなんとも不幸なタイミング。かくして熱心な支持者は中高年のフェミニストだけということになってしまいました。

その中高年フェミニストを含め、予備選挙時に組織の力でヒラリー選出を後押していたことが暴露された民主党委員会の責任も糾弾されています。ヒラリー楽勝に加えて上院の過半数奪還、うまくいけば下院もとれるかもくらいに予想していたわけですが、結果的にはトランプに負けたばかりか確実視されていた上院の過半数もとれませんでした。7月の党大会直前に辞任した民主党委員長デビー・ワッサーマン・シュルツに代わる臨時委員長を務めていたダナ・ブラジルにも同じようなヒラリーびいきのメールが流出。党内の分裂は共和党と同じくらいに深刻です。次期委員長にはリベラルをという動きがありますが、今さら感はぬぐえません。選挙当日までは崩壊している共和党を高見の見物気分だった民主党の立場は今やすっかり逆転してしまいました。ヒラリー当確予想の前提となっていたブルーウォールと言われる五大湖周辺のかつての民主党盤石エリアでまさかの敗北を喫した民主党は、このままでは2度と政権はとりもどせません。

さて、世界中で報道されている通り、ニューヨークやシアトル、ポートランド、シカゴといった大都市で、メレニアル世代を中心にトランプ選出に対するプロテストデモが自然発生的に続々と起きています。いてもたってもいられない気持ちはとてもよくわかります。市内に住んでいたら私も参加したかもしれません。

が、トランプが勝ったレッドステートやトランプ支持地域ではどうなっているのでしょう。メレニアル世代というと都心部の学生ばかりが報道されますが、たとえ貧乏学生だろうと学生であるということはアメリカの恵まれた側にいるということです。トランプ支持地域にもメレニアル世代はいるはずです。メディアの報道はプロテストばかりで、トランプ勝利後もトランプ支持者についてのまともな報道はほとんどありません。メレニアル世代がトランプを支持していないという世論調査だって今となれば眉唾ものです。
圧倒的にトランプ不支持だったメディア(ジャーナリスト)もトランプ勝利のショックから立ち直れていないので、プロテストにシンパシーを抱くのは当然です。が、そもそもメディアがトランプ支持者を把握できていなかったことが敗因の一つなのだとすれば、本当は今こそトランプランドを本気で取材しなければならないはずです。予定調和の外人インタビューみたいな報道では何もわかりません。トランプが「メディアは公平ではない」というのも、ある意味で正しいのです。

そして、変わらないのはトランプも同じです。トランプがプロテストに対して出したツイートがこれ。
「Just had a very open and successful presidential election. Now professional protesters, incited by the media, are protesting. Very unfair! 」
(公正な大統領選で勝ったら、メディアにそそのかされたプロのプロテスターがデモを始めた。アンフェアだ!)
Unfair!ってお前は5歳児かっ!と言いたくなるような相変わらずの反応。プロのプロテスターという大嘘も相変わらず。スタッフの言うことをきいて、おとなしくプロンプターの言うことを読んだ勝利宣言がまともだったからといって安心しちゃあいけません。トランプはトランプです。各地でのプロテストが大々的に報道されている以上、トランプとしては支持者に対して、こうしたドブ板ピンポイント・ツイートをしないではいられません。これで勝ったのだという自負があるので、まわりが何といってもきかないでしょう。

一方、棚から牡丹餅のように勝利を手にした共和党。トランプのキャンペーン中は物陰に潜んでいたくせに、勝ったとたんにまるで自分たちの勝利であるかのように調子づいている上院議長のミッチ・マコーネルや下院議長のポール・ライアンは見るだけでもイラっとします。が、上院、下院ともに過半数を守った以上、トランプ大統領下で何が起こるのかは、共和党にかかっています。その共和党がガタガタなのはすでに分かっているので、これがトランプ大統領登場の不安にさらに拍車をかけているのです。その「これから何が起こるのか」は次回で。

アメリカ大統領選ウォッチ16

注目は上院と下院選挙

2016年大統領選挙も本選挙まであと少し。この大統領選ウォッチも今回が最終回です。トランプの度重なる自爆によって、ヒラリーの勝利はほぼ確実となりました。何かと話題の多い選挙戦ではあるものの、予備選挙時点の高揚感は7月の党大会までで、大統領選に関しては今やアメリカは無力感に覆われています。前代未聞の嫌われ者対決で、チョイスは「とんでもないアポカリプス」または「どうせこれからも変わらないアメリカ」なわけですから当然といえば当然です。ブッシュ政権8年の後にオバマが勝った時のような「これでアメリカは変わる」という楽観的な希望はありません。

予備選にはエスタブリッシュメントと反エスタブリッシュメントという対立構造がありましたが、ヒラリー対トランプという本選挙では、ざっくり言うと知性主義と反知性主義という対立になってしまいました。高卒以下、ブルーカラー、田舎、男性、白人に集中しているトランプ支持者は、反トランプ側から見れば「お前ら馬鹿じゃないのか」としか思えない。知性主義の一大拠点であるメディアはこぞって「お前ら馬鹿じゃないのか」というメッセージを遠まわしに発しています。それで、トランプサポーターが「そうか、俺はバカだったのか」と思うわけもなく、メディアもエスタブリッシュメントと同じ敵だと思うだけです。

ポリティカリーコレクトネスの地雷をあえてふみまくり、論理が破綻しまくっているトランプを論破することなんて小学生でもできます。各局のキャスターが鬼の首でもとったようにトランプを非難するほどに、うんざりするばかり。しかもヒラリーに投票予定の人だって、究極のネガティブチョイスです。バーニーの出現によって否応なくプログレッシブに傾いたあの予備選挙の盛り上がりは今となっては幻のよう。なんだかもう虚しさいっぱいです。

トランプサポーターとヒラリーサポーターを分けている属性は、学歴に加えて、人種や地域など他にもありますが、その中で話題になった調査結果が、もし男だけに選挙権があったら、または女だけに選挙権があったら、という分析です。教育レベル、年収、人種すべて一緒くたにしてともかく性別だけでわけると、なんと男だけが投票するとトランプが楽勝するのです。女だけが投票すると、もう話にならないくらいヒラリーの勝ち。だめじゃん男。

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アメリカでも男と女の間には暗くて深い河が流れているようです。男女平等にうるさいアメリカの本質にあるマッチョ思想は本当に根深いんだなあと思います。そして男だけでもトランプが勝てない東海岸と西海岸、女だけでもトランプが勝つ南部や中西部を見ると、地域的な溝も深いのもわかります。

現実には、男女ともに投票権があるわけで、現在はどの調査でもトランプに勝ち目がないことが予想されています。トランプ大統領という大災害の可能性がほぼなくなった現在、民主党、共和党ともに大統領選よりも上院、下院の選挙対策に中心が移っています。大統領選挙と同日に上院、下院の改選もあるからです。今はいずれも共和党がマジョリティをとっていて、それがオバマの足かせとなっています。民主党としてはトランプ不人気に乗じて、この際なんとかそれをひっくり返したい。共和党としては、もう大統領選は捨てて、なんとしてもマジョリティだけは守りたいというわけです。

上院は任期が6年で2年ごとに3分の1が改選されることになっていて、この11月8日に改選になるのは34議席。現在はそのうち24議席が共和党ですが、民主党がここから4議席奪えば上院を取り戻せるのです。共和党候補は今、トランプを支持すれば中道の共和党支持者が離れ、トランプ不支持を表明すればトランプサポーターから嫌われるという八方ふさがりの状態で右往左往しています。これをついて、民主党が上院を取る可能性は高いといわれています。

今回の選挙でどちらが上院のマジョリティをとるかはとても重要な意味があります。それは最高裁判事の指名権がかかっているからです。最高裁の判事は定員が9名で、欠員ができた時は大統領が新しい判事を指名し、上院の承認を得ることになっています。自然ななりゆきとして、共和党の大統領が指名すれば保守よりの判事となり、民主党の大統領が指名すればリベラルな判事となります。この最高裁判事の構成は、中絶問題から銃規制問題まで、共和党と民主党の政治的争点になっているあらゆる問題に影響します。しかも最高裁判事に任期はないので、一度任命されれば一生やめることはありません。

判事の構成はこれまで保守5名、リベラル4名だったのですが、保守派の判事スカリアが今年2月に急死しました。オバマはすぐに、かなり中道よりの判事を指名したのですが、上院は「任期があと1年しかない大統領の指名ではなく、新しい大統領の指名を待つべきだ」と主張して、審議をしないままのらりくらりとここまで来ています。2月の時点では大統領選で共和党候補が勝てば保守の判事を指名できるという狙いがあったわけですが、ここでヒラリーが勝って、上院を民主党がとれば、中道派どころか思いっきりリベラルな判事を指名することもできてしまいます。

一方の下院は任期2年で全員改選ですから、11月8日に435議席すべてが改選されます。が、こちらは民主党がマジョリティをとれる可能性は限りなく低いといわれています。現在は共和党246議席で民主党188議席。民主党に追い風が吹いているというより、共和党に逆風が’吹いているのはかわりませんが、全体の票数では過半数がとれても議席数でマジョリティをとれる可能性はまずないといわれます。それは共和党が2010年に戦略的に選挙区の境界線を変えたからです。10年ごとに行われる国勢調査の年には州議会が選挙区を境界線を引き直すことができるのですが、共和党は調査年にあたる2010年を目指して大量の選挙資金をつぎ込んであらかじめ州議会をおさえ、下院選挙で共和党が有利になるように境界線を書き換えたのです。これによって民主党が下院のマジョリティをとるのは限りなく不可能に近くなりました。

この明らかな共和党の作戦勝ちに苦い思いをしている民主党は、次の国政調査のある2020年には選挙区の境界線の再度の引き直しを目指しているわけで、国政だけではなく各州議会の選挙にも力が入っています。何はともあれ必要なのはお金ということで、すでに大統領選の勝利が半ば確定したような状態でありながら、ヒラリーも、副大統領候補のティム・ケインもこれから選挙までの2週間は連日ファンドレイジングがみっちりだそうです。

一方の共和党は、下院議長のポール・ライアンが、下院選挙に集中するのでトランプには関わらないと宣言してトランプに腰抜けよばわりされていましたが、共和党の本音が「大統領選は捨てた。トランプ被害を最小限にくいとめたい」であることは明らかです。が、共和党支持者の中には無視できない数のトランプ支持者がいるわけで、トランプ支持者の票なしには勝てないので、それをあからさまにはできません。トランプ不支持を明言する議員が続出したとはいえ、不支持を表明したとたんに、やっぱり支持すると前言を撤回する議員も出るし、トランプを支持するかどうかという質問にはノーコメントを押し通す議員までいる始末です。あちらをたてればこちらが立たずで、お気の毒というしかありません。

トランプが負けて共和党から消えても、トランプを支持している40%近くのアメリカ人は消えません。完全に分裂した支持基盤を抱えた共和党がこれからどうなるのかは興味深いところです。

アメリカ大統領選ウォッチ15

副大統領はどうやって決まるのか

さて、また1ヶ月以上が経過しましたが、ちょっと中休み感のあった大統領選も予備選挙のフィナーレである各党大会となりました。昨日、民主党の副大統領候補が決まって、これで両党の役者がそろい、11月の本選挙にむけて新たな盛り上がりを見せています。

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ヒラリーが選んだのは、バージニア州上院議員のティム・ケイン(Tim Kaine)。ここ数週間、ずっと本命といわれていたので驚きはありませんが、エキサイトメントもないというチョイスです。
副大統領選びは票集めにどう役立つかということが大きなポイントですが、それには、自分が弱い層の獲得と、スイングステートの票集めとの2つの方向があります。自分が弱い層というのは、たとえばヒラリーでいえば若年層ということになります。

それをカバーするために浮上していたのが前回紹介したエリザベス・ウォーレンですが、エリザベス・ウォーレンの場合は、政治的主張がヒラリーよりずっとリベラルで、ヒラリーの副大統領という影のような位置におとなしくおさまるとは思えないという大きな問題がありました。プログレッシプであることを示すためには、ラテン系や黒人の副大統領を選ぶという選択肢もありましたが、そもそもヒラリーはすでに黒人層とラテン系には強く、対するトランプはマイノリティからの支持は壊滅的なので、黒人層のやラテン系の票を副大統領に頼る必要はありません。

と、そこで注目されるのがスイングステートです、アメリカ大統領選ウォッチ8「ニューヨークもLAもかやの外」で書いたように、アメリカは州毎に支持政党の傾向がはっきりしているので、本選挙の勝敗を決めるのは、両党の支持が拮抗している一握りのスイングステートとよばれる州です。そのスイングステートを地盤にしている政治家を副大統領に選べば、貴重なスイングステートを一つ取れる可能性が高くなります。ですから歴代の副大統領候補はこうしたスイングステートから選ばれるケースが多いのです。

その路線で本命の1人とされたのがオハイオ州上院議員のシェロッド・ブラウン(Sherrod Brown)です。オハイオ州は大統領選挙では毎回スイングステートとして勝敗の鍵を握る州で、オハイオをとらずに当選した大統領はいないとまで言われます。しかもシェロッド・ブラウンはブルーカラーに人気があり、NAFTAにもTPPにも反対のいわゆる左派。うってつけに見えるのですが、大きな問題が一つありました。それは上院議員が副大統領になって空きができた場合、新たな上院議員の指名権が州知事にあるという点です。オハイオ州知事は、予備選挙でトランプにやぶれた共和党のケーシック。ケーシックが指名するのは当然共和党員となり、民主党は貴重な上院の議席を失うことになります。共和党の混乱に乗じてマジョリティ挽回を狙う民主党としてはそれは避けたい。

ということで残ったのがティム・ケイン。ハーバード出の弁護士でリッチモンド市長、バージニア州知事、バージニア上院議員と、政治家すごろくを順調に上がってきたような人です。しかも学生時代にホンジュラスで1年間ボランティアをしたことからスペイン語に堪能。副大統領候補指名後初のフロリダでのスピーチは、スペイン語を巧みに混ぜ込んだ素晴らしいスピーチでした。スピーチはヒラリーよりうまい(ヒラリーが下手ともいえますが)。4千万人のスペイン語人口がいるといわれるアメリカでは、スペイン語は政治家には大きな武器です。それだけでマイノリティの味方感が出せる上、同時に国際派知性派アピールもできます。同じ外国語でもフランス語はだめです。フランス語に堪能だったジョン・ケリーは、それをネタに「スノビーなお金持ち」といわれてジョージ・ブッシュに負けました。

ティム・ケインは、副大統領候補として最初に名前が出たときから「I am boring(ぼくは面白みのないヤツだからね)」と自分でいっていたくらいで、地味ではありますが、良い人なんだろうなあ、という感じはします(実際はともかく)。好感度で問題のあるヒラリーとはいいコンビかもしれません。

が、心配なのはこの人が保守派であることです。まず、民主党の政治家としては珍しいプロライフといわれています。インタビューでは「自分自身は中絶には反対であるが、個人の選択に政治が口をはさむのはまちがっていると思う」と微妙な答え方をしていますが、どうも歯切れが悪い。また、銀行の規制緩和も推進しています。

そして、何よりも私が個人的に気になるのは、ティム・ケインがプロTPPであること。副大統領になるにあたって(おそらくヒラリーと足並みをそろえるため)TPPには反対であると表明しましたが、もともとはTPP推進派です。そもそもヒラリー本人がTPPに賛成票を投じていたのに、バーニー人気におされる形で予備選挙中にTPP反対にひるがえっただけで、本心はどうかわかりません。民主党のプラットフォームも最後までバーニー陣営ともめた挙句に、結局反TPPの文言は入りませんでした。民主党大統領であるオバマが推進したものを民主党として反対するのはいかがなものか、というのが理由だとされていましたが、信用できません。

TPPは日本ではプロ・アメリカの条約と考えている人も多いと思いますが、TPPはプロ国際企業であり、国際企業の多くがアメリカをベースとしているというだけのことで、アメリカでも一般には不人気です。ですから予備選挙の時点でほぼ全員の候補が反対していました。ご本尊であるアメリカが不参加となれば話にならないので、ここはなんとかアメリカで葬ってほしいところです。

副大統領というのは普通は政治方針にたいした影響はないのですが、保守派の政治家をランニングメイトとして選んだヒラリーに不安を感じるリベラルは少なくなかろうと思います。それにしても、ヒラリー・クリントンというのは、どうしてこう信用できない雰囲気を醸し出してしまうのでしょう。不思議です。

さて、一方のトランプが選んだのはインディアナ州知事のマイク・ペンス(Mike Pence)。選んだといってもヒラリーの場合と違って、あちこちで断られまくった結果のチョイスです。

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トランプの場合は何しろ政治家としては素人ですから、副大統領はそれをサポートできる国政の経験者であることが必要です。票獲得という点では、トランプは白人ブルーカラー以外のすべてで問題があるので、ある意味誰をみつけてきても役に立つともいえます。が、トランプと政治的心中覚悟の大博打に出よう、というプロの政治家はそういるものではありません。早くから積極的だったのはニュージャージー州知事のクリス・クリスティ(Chris Christie)と元下院議長のニュート・ギングリッチ(Newt Gingrich)です。クリス・クリスティは、アメリカ大統領選ウォッチ6「共和党がまじでやばい」で書いたとおり、ブリッジゲート(GWブリッジ閉鎖事件)で悪役イメージがっつりの政治家です。国政の経験はゼロ。しかもニュージャージー州は民主党磐石なのでとれるはずがない。ニュート・ギングリッチは国政ではベテランで、本人が大統領選挙に出馬したこともあるので経験は申し分ありませんが、下院議長時代から嫌われ者キャラです。2人ともトランプと並べたらいい勝負で、エンターテイメントとしてはおもしろかろうと思うのですが、いずれも票集めには貢献しそうもありません。むしろマイナスイメージです。

トランプが最も弱いのは女性票ですが、共和党の女性知事など、あれこれ声をかけては断られ、さらにマルコ・ルビオ、テッド・クルーズ、ジョン・ケーシックといった予備選挙でのライバルにも断られています。ルビオならフロリダがとれるし、ケーシックならオハイオがとれる(どちらもスイングステート)、クルーズなら福音派の保守層がとれる、と考えたのでしょうが、誰ものってはきませんでした。

最終的にお互いのニーズが合致したのがマイク・ペンスというわけです。「まともな」保守派の政治家であるということで、共和党内では好意的に受け止められましたが、トランプの大博打に乗ろうというくらいですから、王道を行く政治家ではありません。インディアナ州知事のマイク・ペンスが最近話題にのぼったのは、Religious Freedom Restoration Act という表向きは「宗教的自由回復法」ですが、要するにビジネスが宗教上の理由でLGBTを差別することを認める法律を発効させたことです。これによって、大企業やスポーツイベントが次々とLGBT差別を理由にインディアナ州からの撤退を表明して州に経済的な打撃を与えることになりました。結果的にこの法律を撤回することになったのですが、もちろん州知事としては不人気になり、今年の再選が危ぶまれていました。

このマイク・ペンスはトランプに比べれば「まともな」政治家かもしれませんが、その理念はとてもまともとは思えません。アメリカのバリバリ保守っていうのは日本とは別の意味で想像を絶するものがあります。

中絶反対、銃規制反対は共和党のお約束ですが、アメリカ国籍の生地主義に反対(血統主義支持)というのは共和党にもそうはいません。個人的に進化論は信じていなくて、天地創造説を信じているそうです。地球温暖化なんて存在していません。タバコとガンの関連性も認めません。ゲイの未成年へのコンバージョンセラピー(同性愛を治すセラピー)は合法だそうです。

日本のトンデモ右翼でも進化論を信じないとか、ゲイをセラピーで治せるとか言ってる政治家はさすがにいまいと思います。こういう人が州知事で、副大統領になってしまう、というのはある意味、アメリカはすごい。

党大会を前に、それぞれ党のプラットフォームも発表されましたが、共和党は歴史上「最も極端に右よりなプラットフォーム」で、民主党は「最もプログレッシブなプラットフォーム」といわれています。この1年たらずの前代未聞の予備選挙の影響がどちらにも色濃く現れているわけです。

バーニー・サンダースが勝てるみこみがなくなってからもレースからおりなかったのは、このプラットフォームに自分の主張を反映させたかったからで、結果的にそれなりの成果を収めたことになりました。まず、バーニーの売りの一つだった州立大学の無料化は「年収125,000ドル以下の家庭に対して無料化」と、条件付きながらほぼ認めた形となり、最低賃金15ドルと、家庭および健康上の理由での12週間の有給休暇も取り入れられました。最後までもめた反TPPは結局採用されませんでしたが、全体にかなりバーニー寄り、つまり民主社会主義的にプログレッシブになっていることは確かです。これだけ見ると、なんだか明るい未来に見えますが、民主党がプラットフォームとして決めたところで、共和党が国会でマジョリティをとっているかぎり、どれ一つとして成立の見込みはありません。

一方の共和党も負けてはいません。これまで同様にあらゆる銃規制に反対。中絶は違法化をめざす。そしてアメリカの軍人にはアメリカの法律のみを適用(自民党のお友だち、共和党は世界中でこれをやりたいようです)。環境は現在でも向上しているのでこれ以上何もしなくていい、地球温暖化なんて存在していなくて、金のかかる環境政策は民主党の陰謀である。南側の国境には壁を作る(すっかりトランプです)。

先週は共和党の党大会でした。例年なら党大会なんて、ただの候補のお披露目ですが、トランプのおかげで選挙が一大エンターテインメントと化した今年は党大会も注目を集めています。

共和党の重鎮であるはずの元大統領(ブッシュ親子)および元大統領候補(ミット・ロムニーとジョン・マケイン)は全員欠席、反トランプ派の反乱も予想され、本来は党の次世代ホープの売り出しの場とされていた党大会なのにスピーチをしたい人がいない、とすでに開催前から話題満載でした。

ふたをあけてみれば、予想に反して、反トランプの反乱はまったくの不発に終わり(若干のいざこざはあった)、トランプが正式に共和党候補として承認されました。が、政治とは無関係なところでトランプは期待を裏切らず話題をふりまいてくれました。

まずクイーンの「we are the champions」をBGMに使って、クイーンの抗議を受けて炎上。実はこれは2回目で予備選挙の最中にもこの曲を使ってクイーンに抗議されているので、トランプはよほどこの曲がお気に入りらしいです。ちなみにテレビのライブイベント(この場合は党大会)に曲を使用する場合はライセンス料さえ払っていれば、著者の許可を取る必要はありません。トランプのテレビコマーシャルに使うのなら著者の許可が必要なのですが、この場合は必要ない。つまりアーティストは自分の曲がどこに使われるかは選べないのです。だから、この場合クイーン側ができるのはせいぜいツイッターで抗議するくらいです。

そしてそんなことが吹き飛んだのがトランプ夫人、メレニア・トランプのスピーチ盗用事件。スピーチの要になっていた部分がほぼミシェル・オバマのスピーチの丸写し、ということが発覚し大騒ぎになりました。こうしたスピーチでは、プロのスピーチライターが何ヶ月もかけて作成した原稿があることが常識です。メレニアのスピーチもかつてジョージ・ブッシュのスピーチライターだったベテランのライター2人が1ヶ月以上前に完成させてトランプに届けていました。が、実際のスピーチはそれとは全く別ものだったのだそうです。事情がわからないまま共和党は「偶然の一致」説を押し通していましたが、これが偶然である可能性は天文学的確率の低さという統計が報道され、とうとうスタッフの1人が悪気がなくやりました、と発表されました。が、トランプ側からそのスタッフへのおとがめなし、というなんだかえらくあやしいままに話は片付いたのでした。

来週は民主党大会です。はたしてティム・ケインの副大統領候補指名でくすぶっているバーニー支持者をどれだけ盛り上がらせて取り込むことができるのか。トランプは「がっかりしているバーニー支持者はオレに投票せよ」とさわいでいますが、いくら予備選挙結果にがっかりしても、トランプに流れるバーニー支持者はそうはいまいと思われます。が、がっかりしたバーニー支持者がグリーン党やリバタリアン党といった第三党に流れるということは多いに有り得ます。すでにリバタリアン党は今回の選挙では通常以上の関心を集めています。トランプには勝てても過半数がとれなければ大統領の指名権は下院にいくのがアメリカの法律です。トランプと共和党が自爆しているからといって楽勝とはいえないのです。

アメリカ大統領選ウォッチ14

ヒラリーはバーニー支持者をとりこめるのか?

日本に行っていたので1ヶ月以上も間があいてしまいました。その間に共和党はトランプが大統領候補に決定。今週は民主党もヒラリーが予備選挙最後の大票田カリフォルニアを制して勝利を決めました。が、トランプは相変わらずトンデモ発言を続け、バーニーは相変わらず党大会まで戦い続ける姿勢をくずさず(理論的には党大会でデリゲートによる投票が行われるまで正式決定ではない)、両党とも落しどころがまだ見つかっていません。

ことに共和党はトランプの勝利が動かせないものとなってから、ますますの迷走を続けています。クルーズとケーシックが予備選挙を離脱した時点で、トランプが事実上の共和党の大統領候補となったわけですが、共和党幹部からは「トランプは支持しない」という声が続出。ジョージ・ブッシュ、ジェブ・ブッシュ、ジョン・ケーシック、ミット・ロムニーは党大会への不参加宣言。しかし、今となっては打つ手はなく、トランプは順調に勝利に必要なデリゲート数1237をクリア。ここにいたって、とうとう観念したのか、不支持または支持保留といっていた党幹部が、今月になって次々とトランプ支持を宣言しだしました。

なかでも世間を驚かせたのが、現在の共和党のリーダーにあたる下院議長のポール・ライアンのトランプ支持宣言です。

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ポール・ライアンは共和党の若手ホープといわれていますが、この人はついてません。去年ジョン・ベイナーの後をついで下院議長に押し上げられた時点で既にババをつかまされた感がいっぱいだったのですが、今や共和党で最も苦しい立場に立たされています。そのポール・ライアンが何やらトランプと密談した後で「トランプは共和党のアジェンダの法律化に協力してくれるはずだ」と言ってトランプ支持を宣言したのです。

が、一方のトランプは、そんなことはおかいまいなく、またもや人種差別発言でメディアをにぎわすことになりました。トランプのビジネスの一つにトランプ・ユニバーシティという名称からすでにあやしげなビジネスがあるのですが、そのビジネスが詐欺だと訴えられていたのです。現在その訴訟の最中ですが、トランプは裁判官、Gonzalo Curielが気に入らなかった。「俺は反メキシコだと思われているのでメキシコ人の裁判官にはフェアな裁判はできない」と言い出したのです。
ちなみにこの裁判官はインディアナ州生まれのメキシコ系アメリカ人です。メキシコ人ではありません。

この発言にあわてたのが、トランプ支持を宣言したばかりの共和党幹部の面々です。不適切発言についてメディアに問い詰められ火消しにおおわらわとなりました。が、当の本人は「俺はほんとのことを言ってるだけだ」と火に油を注ぎまくっています。ポール・ライアンとの間でどういう話し合いがあったのかはわかりませんが、トランプがトランプでなくなることは有り得ないというのが早くも明らかになりました。

これは人種差別発言ではないのか、というメディアの追求に、最初は「不適切であるがゴニョゴニョ」と口を濁していた共和党幹部も、収拾が付かないとみて人種差別発言である事を認めはじめました。そして、これを機にトランプ不支持を明言する共和党議員も現れだしました。
ポール・ライアンやミッチ・マコーネル(上院の共和党リーダー)のような共和党役員はトランプがどんなにろくでもないことをしようと、立場上トランプ不支持を宣言するわけにはいきません。人種差別発言をするような候補者を大統領候補として支持できるのか、という記者の質問への答えは「クリントンに勝たせるわけにはいかない」です。つまり、積極的にはおすすめできない候補というわけです。

今、共和党の政治家はみな、トランプ支持にまわるリスクか、不支持にまわるリスクかどっちをとるかをせまられています。まだまだ11月の大統領選挙までは一波乱も二波乱もありそうです。

一方の民主党は、ヒラリーが勝利に必要なデリゲート数を固め、民主党候補となりました。初の女性大統領候補という華々しい見出しが出ても、なんだか世間は冷めています。ヒラリー支持者とバーニー支持者の溝は一向にうまる気配はなく、民主党も本選挙にむけての一本化ができずにいます。本選でトランプに勝つためにはバーニーの支持者を取り込むことが必須です。この先の国会議員選挙を考えても、ここでバーニー支持の若年層が離れていくのはなんとしても避けたい。が、もともと反エスタブリッシュメントのムーブメントとして支持を伸ばしてきたバーニー陣営の民主党本部との確執は選挙戦を通じてさらに深くなっています。

それが一気に噴出したのが5月のネバダ民主党州大会です。ネバダ州の予備選挙は2月にヒラリーが勝利しているのですが、ネバダ州のデリゲートの配分の仕方は複雑で、最終的なデリゲート獲得数は州の党大会で決定されます。この州党大会を運営したネバダ州民主党代表のロバータ・ランゲのやり方が不公平だとして、バーニー支持者が大暴れ。ランゲに脅迫メールが送られる騒ぎになりました。実際に不公平であったのかどうかは賛否両論があるところなのですが、実はバーニー支持者の不満はこれに始まったことではありません。民主党執行部が何事もクリントンに有利なように運んでいるということは予備選挙が始まったころから指摘されていました。

たとえば、討論会の日時は常にフットボールの放送時間の裏など、視聴率が低い時間帯に設定されていました。これは、既に政治的知名度のあるエスタブリッシュメントサイドの候補、つまりヒラリーに有利になるやり方です。こうした民主党執行部のさりげないヒラリー援護をしていた中心人物とされるのが民主党委員長のデビー・ワッサーマン・シュルツです。

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そのデビー・ワッサーマン・シュルツがネバダ州の騒ぎに関してバーニーとその支持者を非難しました。バーニー支持者もだまってはいません。バーニー以前からリベラル派には評判の悪かった人だけに、公平であるべき立場にありながら職務を果たしていない、と一気に民主党の悪役となり、委員長おろしのキャンペーンまで始まりました。デビー・ワッサーマン・シュルツはスケープゴートにされただけだという意見もあります。が、この人がヒラリーのガールズクラブのメンバーであることは間違いありません。そして、おそらくネバダ州のロバータ・ランゲも。

かつて、職場に進出した女たちは権力をにぎる男たちの非公式なネットワークをボーイズクラブといって非難していました。おそらくボーイズクラブは今も健在ですが、男女平等が実現してめでたくガールズクラブもできたわけです。デビー・ワッサーマン・シュルツも「女どうしは助け合うのが当然だ」と説教をたれたオルブライトも、外から見ればガールズクラブだってボーイズクラブと同じくらいアグリーに見えることに気付いていないのです。初の女性大統領候補という謳い文句がどこか釈然としないのも、女性を含めた多くの人々にとって、それがもう一つのエスタブリッシュメントにしか見えないからです。

さて、敗北がほぼ決定したバーニーですが、相変わらず選挙戦を退く気はなく、断固として党大会まで持ち込む姿勢を貫いています。通常の予備選挙なら負けが見えた時点で降りるのですが、逆転勝利は考えられない状態でバーニーが何を望んでいるのか、またヒラリーと民主党がバーニーに何をオファーするのかが注目の的となっています。74歳という年齢からいってバーニーに次はありません。そして副大統領ということも考えがたい。しかし、なんらかの形でバーニーの政治主張をとりいれないとバーニー支持者は納得しない。バーニー支持者にそっぽを向かれては本選挙が危ない。

まず民主党執行部がオファーしたのは党の基本方針を決めるプラットフォームコミッティ(基本方針委員会)のメンバーの指名権です。規定では民主党委員長(デビー・ワッサーマン・シュルツ)が15人の委員全員を指名できるのですが、デリゲートの獲得比率に応じてヒラリーが6人、バーニーが5人、シュルツが4人という異例の形になりました。これによって、バーニーの主張も民主党の基本方針に反映されるというわけです。民主党から見ればかなりの譲歩だと思いますが、これによってもバーニーを撤退させることはできませんでした。果たしてバーニーはどこまで民主党をプッシュできるのか、民主党は党大会後にバーニーをどう扱うのか。当面はそれが民主党の注目ポイントです。
実は、ここに来てもう一人注目を集めている民主党の政治家がいます。民主党女性議員の中で唯一ヒラリー支持を表明していなかった上院議員のエリザベス・ウォーレンです。

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この人は民主党の急進派として人気のある政治家で、リベラルな政治家としては去年まではバーニーより有名でした。そのエリザベス・ウォーレンが今週ヒラリー支持を表明したのです。そして民主党のさまざまなイベントでトランプ攻撃のスピーチを展開し始めました。

このスピーチもなかなか面白いのですが、ひょっとしてヒラリーの副大統領候補になるのでは、ということでも注目されています。そうです。女の大統領に女の副大統領。エリザベス・ウォーレンはバーニーの支持者にも人気がある。女、女は有り得まい、と普通なら考えますが、だからこそプログレッシブなイメージをアピールできる。一応、筋は通っています。

大統領候補が決まった今、とりあえず次の注目は副大統領選びです。