「気になる英語あれやこれや」第2回 『ハルメク』2016年6月号掲載

50代からの女性誌『ハルメク』に2016年から連載中のコラム「気になる英語あれやこれや」のバックナンバーを順次掲載しています。これは2年前、グルテンフリーが大流行していたころに書いたもの。今でも相変わらずグルテンフリーを実践しているアメリカ人はけっこういてグルテンフリー製品も定番化しています。
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Stop Making Light of the Gluten-Free Diet
グルテンフリーダイエットを流行り物にしないで。

「~を含まない」を意味するフリー(free)はアメリカの健康食品のマジックワードです。Sugar free(無糖)、fat free(無脂肪)など、これまでもいろいろなトレンドがありましたが、ここ数年の流行はグルテンを断つグルテンフリー(gluten free)。グルテンとは小麦などの麦類に含まれるタンパク質で、グルテンフリーとは小麦を使った食品を食べないということ。芸能人の間でのブームから始まって、グルテンをやめたら、疲れにくくなった、肌がきれいになったなどの体験談からあっという間にfad diet(流行ダイエット)となりました。

今や、ニューヨークのレストランでは4人連れのグループがいれば、少なくとも1人はグルテンフリーがいると言われるほどで、グルテンフリーパスタをメニューに加えるイタリアンレストランすらめずらしくなくなっています。スーパーにはグルテンフリーコーナーができ、グルテンフリーブレッドからグルテンフリービールまで、グルテンフリー商品が大流行です
グルテンフリーは、もともとグルテンによって重篤なアレルギー反応を起こすセリアック病という自己免疫疾患に必要な食生活でした。アメリカでの罹患率が100人に1人程度といわれるセリアック病患者にとっては、このグルテンフリーブームは朗報かと思いきや、かえって「軽く見られるのが困る」という記事「Stop Making Light of the Gluten-Free Diet」(make light of/軽く見る)がハフィントンポスト(英語版)に掲載されていました。

セリアック病患者にとってはグルテンフリーは命がけのミッションです。調味料やスープに入っている小麦粉にまで神経をとがらせなければならないのですが、グルテンフリーブーム故にその深刻さが伝わらず、ただの健康オタク(health nut)扱いされがちだというのです。

グルテンに対する耐性がとくに低いわけではない普通の人にとっては、グルテンフリーが身体にいいという科学的根拠はありません。そもそもやせるためのダイエットではなく、体調が良くなったという本人の実感が主な拠り所です。実はアメリカ人には、グルテンに限らず炭水化物は食べない、肉は食べないなど、さまざまな「~フリー」実践者が多いのです。ですからパーティなどでは、誰でも食べられるものを1品は用意するのが、おもてなしの重要ポイントとなります。ベジタリアン料理は大分前から必須アイテムでしたが、最近はそれにグルテンフリーのアイテムも加わりました。しかし、同じキッチンで小麦粉を使っただけで反応してしまうセリアック病患者にとっては、これもたいして有難くないことかもしれません。

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イースト入り発酵パンケーキ

私は子どものころからホットケーキとかパンケーキとかはさほど好きではありません。が、パンケーキを作るのは大好きだし、同居人が無類の甘党なので、ずいぶんいろんなレシピを試してきました。これは日本からの帰りの成田空港で買った「暮らしの手帖」でたまたまレシピを見つけたもの。イーストで発酵させるパンケーキっていうのを初めて見たので興味本位で作ってみたのですが、これが美味しい。かなりクレープに近い食感ですが、クレープではない。これまでパンケーキはふわふわのリコッタパンケーキみたいなのが一番と思っていましたが、宗旨替えしました。シロップで食べるよりも有塩バターだけか、ハニーバター(有塩バターとハチミツ同量を混ぜる)をつけるのがおすすめ。クレープ同様、辛口のトッピングとも合って、パンがわりにおかずと一緒に食べることもできます。
小麦粉は薄力粉でも中力粉でもいけます。私は薄力粉に全粒粉の中力粉を半分混ぜています。もとのレシピは重量でしたが、アメリカ流にだいたいの容量に変換しました。何度か作るうちに分量も混ぜ方もどんどん適当になっていきましたが、まったく大丈夫でした。焼くのも簡単。ひっくり返すのも簡単です。前の晩に仕込んでおきさえすれば数分で出来上がります。
材料:卵1個、砂糖小匙2、牛乳250cc、小麦粉1カップ、ドライイースト小匙1/4、溶かしバター(有塩)大匙1

1. 粉とイーストをよく混ぜておきます。

2. 泡だて器で卵と砂糖を軽く混ぜ、牛乳を加えてさらにまぜます。

3. そこに粉とイーストのミックスを加えてなめらかになるまで混ぜます。粉はふるわなくても大丈夫。

4. 熱い溶かしバターを加えて混ぜ、ラップをかけて冷蔵庫で一晩ねかせて発酵させます。

5. 朝になるとタネが分離したようになっているので均一になるまで軽くまぜます。

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6. テフロン加工のフライパンにペーパ―タオルでうすく油をひいて中火にかけます。

7. タネを玉杓子ですくって流しいれます。この時フライパンを回したりしないで自然に広がるようにします。ゆるい生地なので勝手にひろがってくれます。

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8. 表面に細かい穴があいて固まってきたら裏返します。薄いので両面で数分で焼けます。

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*余ったタネは冷蔵庫で翌日まで保存できます。

「気になる英語あれやこれや」第1回 『ハルメク』2016年5月号掲載

50代からの女性誌『ハルメク』に2016年から連載中のコラム「気になる英語あれやこれや」が3年目に突入しました。そこで、このブログでバックナンバーのコラムを第1回から順次掲載していきます。2年前の記事になるので、ちょっと話題が古かったりもしますが、アメリカの暮らしや文化のおもしろいところは今も変わりません。以下に掲載するのはアメリカでコンマリがブームになっていたちょうど2年前のものです。
ちなみに最新号2018年5月号掲載の「気になる英語あれやこれや」は「Just Don’t Call Me “Grandma” /「おばあちゃん」なんて呼ばないで」です。このコラムの最新版は『ハルメク』をご購読ください。(ウエブサイト:https://magazine.halmek.co.jp/ )

A Closet’s Loss, a Consignor’s Gain
クローゼットはすっきり、リサイクルショップは繁盛

日本が誇る片づけの女王、近藤麻理恵著『人生がときめく片づけの魔法』はアメリカでも「The life-changing magic of tidying up」として発売され、瞬く間にベストセラーとなりました。ニューヨーク・タイムズ紙にも、去年はコンマリ本の影響でニューヨークのconsignment shop(中古品委託販売店)に持ち込まれる中古品が増えた(「The Marie Kondo Effect: A Closet’s Loss, a Consignor’s Gain」)と報じられていました。広い家に住んでいるアメリカ人にも片づけは悩みの種で、declutter(片づけ)やorganizing(整理整頓)でグーグル検索すれば、アドバイスやら体験ブログやらが山のように出てきます。

アメリカの片づけ問題の落とし穴は、実はその家の広さにあります。アメリカの家の収納力は半端じゃありません。そして、収納力がある家ほど片づけの闇は深い。アメリカの家には往々にして屋根裏部屋や地下があります。生活空間の2倍の面積の押入れがあるようなものです。コンマリメソッドを実践しようにも、すべてのものを引っ張り出すのは気が遠くなるような大作業になります。

その屋根裏や地下の埋蔵品にいやでも向き合わなければならないのが引っ越しです。国勢調査によると、アメリカ人は一生のうちに平均11.7回引っ越しをするそうです。これだけ引っ越しすれば、そのたびにものが減りそうなものですが、人生の前半は家族が増えるに従って家も大きくなっていくので、そううまくはいきません。チャンスは子どもが大学生になって家から出ていく時です。

同居する子供がいなくなった親をempty nester(からの巣の住人)といい、エンプティネスターの多くは、無駄な出費を省くために子育てをした巣をたたんで、夫婦だけ、あるいは自分だけのための小さい家やアパートに引っ越します。家のダウンサイズは経済的な必要性が一番の理由ですが、第2の人生をスタートするための片づけとしても有効です。

2014年にヒットした映画「6才のボクが、大人になるまで。」(原題「boyhood」)で、母親が大学生になって家を出て行く子どもたちに、本当に大切なものだけ持って行って後は処分するようにと告げる場面があります。親の家に居場所がなくなることに子供たちはショックを受けますが、長い目で見れば、中年になってから実家を整理しなければならなくなるより、よほど本人のためです。

もっとも実際はアメリカにも、そうきっぱりと告げられる親は多くはありません。ボロボロのバービーや機関車トーマスにときめいてしまうのは、やっぱり親の方なのです。
『ハルメク』2016年5月号掲載(見出しの英語はNew York Timesから)

ダッチベイビー

今、一番気に入っている朝食メニューがこれ。卵とミルクと粉とバター。配合はほとんどポップオーバーと同じですが、こっちの方が簡単で美味しい。実働時間数分。ただ一度にたくさんは作れません。これで2人でちょうどいいくらい。

オーブンにいれられる鉄の厚手のフライパンが必要です。私が使ってるのはロッジのキャストアイアンのフライパン(日本ではスキレットとよばれてるかも)。

材料:卵3個、小麦粉半カップ、牛乳半カップ、砂糖大匙1/2、バター大匙2

*カップはアメリカサイズなので240ccくらい。

*ケーキと違って、ダッチベイビーのバターは有塩の方がおいしいです。

まずオーブンを425℉(220℃)にあたためておきます。

1.卵に砂糖を加えて泡だて器でよく混ぜて、そこに粉をいれてされに混ぜます。粉はふるわなくても大丈夫。ケーキとちがってダマがなくなるまでガンガン混ぜてかまいません。粉と卵がよく混ざったら牛乳を加えてよく混ぜます。

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2.フライパンを強火にかけて、バターをとかします。バターが音をたてて焦げる直前くらいまでしっかり温めます。

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3.熱いフライパンにタネを一気に流し込んだら、すぐにそのままオーブンへ。

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4.時々様子を見ながら(オーブンの扉はあけずにのぞき窓から)ふくらんできて美味しそうなきつね色になるまで焼きます。オーブンによりますが、だいたい15分くらいです。そのまますぐに出してもいいですが、火をとめて数分オーブンの中においておくと出したあとでしぼみにくくなります。ただし焦げないように注意。

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牛乳をすこし減らしてリコッタチーズをいれても美味しいです。ちょっとした配合や温度の違いでいろんな膨らみ方をしますが、それもまたおもしろいところです。

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Windows 10のFall Creator’s Updateに要注意!

通常のセキュリティアップデートの大型版と勘違いして、うっかりインストールしてえらい目にあいました。Chromeの画面がいきなり真っ暗。カーソルを動かすと反応するので機能しているはずなのですが、displayが真っ黒。コマンドの帯も表示されないので処置無しです。PCを再起動しても変化なし。Chromeを再インストールしようとしたらアンインストールができない。Safe modeで立ち上げてやっと再インストールができました。ところが、再インストールしたChromeもSafe modeでは機能するのに、通常モードではやっぱり真っ暗。つまり問題はChrome ではなく、Fall Creator’s Updateの新しい機能がChrome の表示機能とコンフリクトを起こしているということです。Chromeは今、一番リライアブルなブラウザとされているので、Chromeを使うよう指定されている仕事がいくつかあり、他のブラウザに変えればいいというわけにはいきません。Chrome回復は必須というわけであれこれ試行錯誤のあげくChromeのadvanced settingsのhardware accelerationを無効化することで、やっと解決しました。Chromeのような一般的なブラウザでこんなことが起こるなんて、評判悪いEdgeをプロモートするためにわざとやってんじゃないかと思われてもしかたかないぞ、Microsoft!ちなみに私がやったのはPCを再起動してみる、というところまでです。そのあとはすべて優秀な家庭内テックサポートがかなりの時間をかけて解決してくれました。PCを起動するたびに自動的に立ち上がるUpdateのお知らせはNo Thank Youのチョイスがなくて、Do it nowかLaterだけなのでお気をつけください。

トランプ大統領4:トランプ政権はいつまでもつのか?

大統領就任から3か月。弾劾の種は山盛りですが、弾劾される気配はありません。それは弾劾を訴追する下院で共和党が圧倒的多数を占めていることも要因の一つですが、実は民主党や無党派リベラル層からも弾劾を望む声はさほど強くありません。それはトランプを弾劾しても、そのあと大統領になるのは副大統領のマイク・ペンスだから。

マイク・ペンスはトランプに比べれば常識的な政治家といえるかもしれませんが、時代錯誤といってもいい保守派です。共和党大統領候補の予備選挙を勝ち抜いたトランプが副大統領候補さがしで主流派の政治家に断られまくったあげくに連れてきたのがペンスです。インディアナ州知事だったペンスはReligious Freedom Restoration Actという「宗教上の理由でLGBTを差別することを認める」州法を発効させたことで知られています。この時代に逆行した州法は、大企業やスポーツイベントの大ボイコットを招き、結果的に撤回を余儀なくされました。しかし、州の経済に打撃を与えたペンスは不人気で再選が危ぶまれていました。そもそもがトランプでもなければ副大統領になんて指名されるはずのない政治家だったのです。

LGBTだの中絶だのという社会問題については本音はどうでもいいと思っているトランプと違い、ペンスが大統領になればまっしぐらに超保守路線です。しかも党の方針なんてへとも思っていないトランプと違って、党の方針に従順なペンスが大統領になれば、上下院で過半数をとっている共和党はやりたい放題。スムーズに保守化路線が進んでしまい、LGBT差別OK、中絶禁止というとんでもないことになりかねません。たとえロシア疑惑によってペンスまでが失脚したとしても、その次に大統領になるのは下院議長と決まっています。つまりポール・ライアンです。もともとティーパーティ系の政治家として勢力を伸ばしてきたポール・ライアンはオバマケア廃止を悲願とし、あらゆる福祉縮小を主張する徹底した自己責任資本主義原理主義者です。こちらも民主党にとっても無党派層リベラルにとってもペンス同様にトランプより都合が悪いのです。

民主党と無党派リベラルにとっては、ともかくこの先4年間をなんとかやり過ごすしか方法はありません。反対運動を続け、2018年の中間選挙でせめて上院の過半数を奪回し、次回大統領選の2020年まで、できるかぎりトランプと共和党の望む政策が通らないようにするというのが唯一の戦略です。つまり、現状で考えられる最良の形とはトランプに何もせず、何もクライシスを起こさずに4年間をまっとうしてもらうことです。

一方の共和党主流派の政治家にとっては、実はトランプを弾劾して、言うことをきくペンスを大統領にしたほうが都合がいい。ポール・ライアンならもっといい。が、トランプを弾劾するということは、トランプサポーターを敵に回すということです。そうすれば議員としての自分の再選が危ない。トランプの支持率は30%代と史上最低を記録していますが、これを共和党支持者だけに限ると、まだ70%を超えています。トランプ支持者にとって主要メディアの流すニュースはトランプの言う「フェイクニュース」なわけですから、ロシア疑惑や収賄スキャンダルの証拠があがったところでトランプ支持者が急激に減ることはないでしょう。今の状態でトランプの弾劾を主張できるような共和党の政治家はいません。したがって共和党主流政治家にとっては、向こう4年間なんとかトランプの機嫌をとりながら党として通したい政策を進めていく、ということが最善の策です。

つまり、共和党、民主党、無党派層、それぞれの思惑でトランプ4年間の続投はやむなしとなっているので、よほどの事態の急展開がないかぎり弾劾はあり得ないのです。

ここにきて、トランプは外交方針のまったくない無暗な爆撃や脅しで世界を震撼させていますが、自分の国が戦場になった経験のないアメリカは他国に対する軍事行動に対して驚くほど鈍感です。そして多くの人がいまだに正義の攻撃というものを観念的に信じています。アメリカ自体に相当なダメージが出ないかぎり、トランプの軍事行動が「よほどの事態」とアメリカ人に自覚されることはないでしょう。

トランプ大統領3「今何が起こっているのか」

トランプ大統領下で起こってくる問題は、連邦裁判官の任命権だの健康保険の先行きだの、誰でも予想できる問題が山のようにあるのですが、選挙からわずか1週間もたたないうちに、先の問題を云々するどころではなくなってしまいました。それはもう引き継ぎ準備1日目から、次々とありえない問題が勃発するからです。

というわけで「これから何が起こるのか」は、また先送りで、とりあえず「今何が起こっているのか」です。

日本では安倍総理がいち早くトランプと会見を行ったことが大きなニュースになっていました。会見前夜から、他国の首脳に先駆けて日本の首相が一番にトランプとの会見をとりつけた、と日本のニュースで報じられていましたが、同じころにアメリカで今一番人気のある政治番組「Rachel Maddow Show」では、日本の首相との会見が別の意味で取り上げられていました。なんと、会見が翌日に迫っているにも関わらず日本側に、会見の場所も時間も出席者も知らされていないというのです。そのうえ、日本側は誰に問い合わせればいいのかもわからなくて困っていると。

これは別に日本が軽視されているという意味ではありません。ことほどさように誰もがトランプと連絡がとれなくて困り果てている、外国の首脳ですらこの有様というトランプチームのディスファンクションぶりの例として挙げられたのです。本来なら新大統領はできるかぎり早く各部門からブリーフィングを受けなければなりません。国務省からのブリーフィングを受けなければ、外国の首脳との電話会談だってできないはずなのに、トランプはつかまらない。

それだけではありません。主要な役職を早急に任命して、その引き継ぎもしなければならないのに、それも一向に進んでいない。現政府関係者の不安は増すばかり、といった報道が相次いでいるところにポストされたトランプのツイッターがこれ。

「Very organized process taking place as I decide on Cabinet and many other positions. I am the only one who knows who the finalists are!」

「閣僚選びはすべて順調。ファイナリストを知ってるのはオレだけだ!」って、この男、まだ大統領選をリアリティショーと勘違いしています。首相が代わっても各省庁の首がすげ代わるだけで官僚はそのままの日本の制度と違って、アメリカでは大統領が代わると官僚からホワイトハウスのスタッフまで全員が総取り換えです。何千人というポジションを決めなければならないのに「オレだけ」でどうするって話です。Very organizedなわけがありません。

そもそも誰も予想だにしなかったトランプ当選。トランプ自身だって本気で大統領になるつもりなんかなかったに違いありません。本人だって周囲だって当選後の実務なんて本気で考えていたわけがないので、スムーズにいくわけがないのです。

そのうえ、選挙戦中にトランプの三銃士と呼ばれ、トランプがどんなトンデモ発言をしようが無理やりな言い訳をし続けたクリス・クリスティ、ニュート・ギングリッチ、ルドルフ・ジュリアーニは、プロの政治家とはいえ揃いも揃ってあまりにも問題をかかえすぎた崖っぷち野郎ばかり。忠誠心を大切にする(らしい)トランプがいくら三銃士を閣僚入りさせたくとも、そうは簡単にはいかない。

そこにもってきて、政権移行チームをリードするはずだったクリスティがいきなりチームから外され、クリスティの息のかかったスタッフは全員辞任というクリスティ・パージ。原因は、選挙間際のトランプのセクハラスキャンダルで弁護しなかったからとも、クリスティが検事時代にトランプの娘婿の父親を牢屋に送ったからともいわれます。何が本当の理由かはわかりませんが、まるでマフィアの報復劇。クリスティの方だって、ブリッジゲート・スキャンダル(アメリカ大統領選ウォッチ6「共和党がまじでやばい」参照)で選挙と前後して部下に有罪判決が下り、本人が訴追されないことが不思議な状態、とマフィア度ではどっこいです。

そして、クリスティのかわりにチームリードとなったのは副大統領のマイク・ペンス。が、このマイク・ペンス、政権移行チームをリードするのに必要な書類のサインを忘れ、またそこで遅れをとる。いまさら驚くことでもありませんが、チームの誰も実務を把握している人はいない模様です。それだけならまだしも、チーム内には通常ならありえないようなエグい面子が目白押しで、それがいちいち物議をかもす。

中でも一番問題視されたのが選挙アドバイザーからトランプ政権の戦略アドバイザーとなったスティーブ・バノンです。右翼の白人至上主義者として知られる人ですから、いくら保守の共和党の大統領だって、普通ならわざわざチームに入れたりはしません。が、そこが「忠誠心を大切にする」トランプです。

そして、政治のアウトサイダーだから献金やしがらみのない、国民のための政治ができると豪語していたはずなのにチームはロビーストだらけ。政治家に裏から働きかけていたロビーストが、そんなまどろっこしいことしなくても直接仕事ができるという最高にインサイダーフレンドリーなチーム。ロビーストまみれと批判されたのに慌てて、ペンスはロビーストを一掃すると宣言したのですが、もちろんそんな形ばかりの首のすげかえでロビーストの影響がなくなるわけはありません。世間様が信用せんわ、と言いたいところですが、トランプを選んじゃった世間様が、いつ気づくのかはわかりません。

トランプチームの問題はロビーストによる大企業の営利だけではありません。トランプチームには、トルコだのロシアだの問題になりそうな国と関わりをもっている「コンサルタント」がごろごろいます。そして、何よりも大きな問題なのはトランプ自身です。トランプ・エンタープライズそのものが大統領としてconflict of interest(利益相反)になります。なにしろトランプの名前のついたビルやらゴルフ場やらが国内ばかりでなく、外国にもたくさんあるのです。もう汚職の種はありまくりです。

そもそもトランプは60年にわたる大統領候補の中で、唯一税金申告書を公開しなかった候補です。大統領候補になれば税金申告書を申請して財政的な公正さを証明するのは常識とされてきましたが、トランプは相次ぐリクエストにも関わらず最後まで拒否し続けました。法律的な義務ではないので、それでも押し通せたわけです。実は違法すれすれの税法の抜け道を使って、この10年まったく連邦税を払っていない(今後数年も払わないですむ)ということがリークしても、しゃあしゃあと「それはオレが頭がいいからだ」とぬかしていました。今後も法律を破っていない(と解釈できるものなら)なんでもあり、に決まっています。

こんな形の国際企業の経営者が大統領になったことはアメリカの歴史上ありません。歴史上ない、ということはどういうことかというと規制する法律が整っていないということです。想定外ですから。もちろん、お金持ちの大統領はこれまでだっていました。というか、大統領になる時点である程度の財産はあるのが普通です。そこで利益相反を未然に防ぐために、歴代の大統領は財産を白紙委任信託(blind trust)にしてきました。白紙委任信託とは、財産を第三者に託して、本人にはその信託の状況をまったく不明な状態にするということです。

が、トランプが主張するのはトランプ・エンタープライズは「3人のこどもたちにblind trustとして託して経営させる」。子どもは第三者ではありません。ですから、それではblind trustではないし、利益相反の防止効果はまったくないわけですが、トランプとそのチームはそれをblind trustと言い続けています。そればかりではありません。その3人のこどもたち、ドナルド・ジュニアとエリックとイヴァンカ、およびイヴァンカの夫、ジャレット・クシュナーは政権移行チームのメンバーでもあります。つまり政府の要職の任命に関わる子どもたちが、政権移行後はトランプ・エンタープライズを経営するというわけです。

そもそも自分の家族を政権移行チームに入れるということ自体が前代未聞です。が、禁じる法律がないのでできてしまいました。白紙委任信託にすることも法律で義務化されているわけではありません。これまですべての大統領が常識として行っていたのは、わざわざ疑いを招くような、悪くすれば弾劾につながりかねない状況を放置すればろくなことにならないと信じていたからです。

トランプの家族経営は政権移行チームだけにとどまりません。トランプは娘婿のジャレット・クシュナーをホワイトハウスのスタッフにすると主張しています。これには、家族をAgencyとして雇うことを禁じたanti-nepotism lawがあるのですが、Agencyの解釈が微妙で、無給であれば法的には可能になってしまうというのです。しかもジャレット・クシュナーは政治家でもなんでもありません。その妻のイヴァンカが兄2人と一緒にトランプ・エンタープライズの経営を任されるというのですから、もうありえないくらいうさん臭い。とても先進国の近代国家の出来事とは思えません。

さあ、ここでまた「どこの国の首脳より早く」トランプと会談したわれらが安倍総理です。安倍総理はトランプとは気が合うかもと言っていたそうですが、それはそうでしょう。「美しい国、日本」に「make America great again」。中身のないスローガンのコンセプトまでなんだかかぶってます。この会見はアメリカでも話題になりました。内容ではありません。そこにイヴァンカとジャレット・クシュナーが同席していたからです。

外国の首脳との会見の場に政府と無関係な家族を同席させるなんてありえないというわけです。情報の機密性の問題はもとより、日本がトランプ大統領の政策に影響を与えるために、イヴァンカ・トランプの日本でのビジネス展開に進んで便宜を図るといった可能性だってあるわけです。そもそもトランプ・エンタープライズそのものの扱い自体も問題です。例えばトランプタワーを日本に作ろうと思えば、日本政府とのパイプがあれば有利に決まっています。

そんな物議をかもすのがわかっているような会見写真をトランプチームは、なぜわざわざ公開したのか。共和党内でも反対の多いであろうジャレット・クシュナー採用を既成事実にしようとしたのか、それともただ状況を理解していなかったのか。理由はわかりません。が、この会見の相手となった日本がどう見えるかというと「微妙」。少なくとも「日本の外交が巧みで、各国を出し抜いて新政権とのアメリカ外交でリードした」というふうには絶対に見えません。おそらく他の国は今は様子を見ているのです。

まだまだ本当にトランプ政権がどう実現するのかさえ、見えていません。事態が現実味を帯びてくるほどに、トランプは本当は大統領になんてなりたくないに違いないと思えるばかりです。ビジネスを本当のblind trustにするくらいなら、大統領をおりたほうがましと思っているに違いありません。陰でペンスに代わってくれと言っていても不思議はありません。

先週は、新たに司法長官に指名されたジェフ・セッションズが物議をかもしました。1986年にレーガンに連邦判事に指名されたものの人種差別的発言で上院の承認を得られなかったという経歴の持ち主だからです。今よりよほど社会が保守的だったはずの1986年の時点で承認を得られなかった人が今よみがえるというのですから恐ろしい話です。

一方で共和党内の反トランプの急先鋒だったロムニーが国務長官に指名されるかもという説も浮上しています。あれだけトランプに冷たかった共和党エスタブリッシュメントは、トランプ当選がまるで自分たちの手柄であるかのように大はしゃぎです。果たしてトランプは共和党エスタブリッシュメントの傀儡政権となるのか。独自路線を貫くのか。そもそも4年をまっとうできるのか。もしトランプが弾劾されたとしても、その後釜として大統領になるのは副大統領のあのマイク・ペンスですから(アメリカ大統領選ウォッチ15「副大統領はどうやって決まるのか」参照)、ある意味トランプより悪い。リベラルに逃げ場はありません。

トランプ政権で、これから何が起こるのかは今回の選挙で圧倒的な力を持った共和党がどうやってトランプと折り合っていくのかにかかっています。そして長期的には、惨敗民主党に2年後の中間選挙でせめて上院を取り戻すまでに立ち直ってもらわなければならないのですが、両党とも信じられないくらい変わっていません。これだけ天地を揺るがすような大統領選のあとでも組織というのは絶望的に変わらないものです。それについては次回に。