アメリカ大統領選ウォッチ1

アメリカ大統領選ウォッチ1
アメリカは社会主義アレルギーを克服できるか?

モデレーターが気に入らないという前代未聞の理由で予備選前の最終ディベートに出なかったトランプ。ディベートとまったく同じ時間に自分ひとりでラリー(集会)を行い、相変わらずのお騒がせぶり。トランプのおかげで共和党予備選はリアリティ番組よりエンターテイニングな大混戦。日本のメディアで話題になるのもトランプの悪目立ちぶり一辺倒ですが、実は、今回の大統領選では民主党予備選挙も異例の展開を見せています。それは、バーモント州上院議員のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)が予想外の健闘ぶりを見せていることです。何が異例かというとサンダーズが社会主義者を標榜する政治家であること。

早くからヒラリー・クリントンで決まりと思われていた民主党大統領候補ですが、去年の春頃からバーニー・サンダースが急速に支持を伸ばしてきました。支持基盤は圧倒的に若者。

米ソ冷戦時代以来のアメリカのsocialismアレルギーは実に根深いものがあります。日本の戦後の価値観はアメリカの価値観のコピーと思い勝ちですが、敗戦国日本と違って戦勝国アメリカは戦前の価値観をそのままひきずってここまできています。アメリカは正義の味方、敵国は悪者という考え方に、保守もリベラルもおおまかなところでは疑問をもっていません。50年代、60年代に子供時代を過ごしたベビーブーマー世代は小学校でソ連の攻撃に備えた防空訓練を受けていました。社会主義国は敵国。ソ連やベルリンの壁の崩壊とともに悪者は滅んだ。ほら、やっぱり資本主義は正しかったのだ、ということになります。しかも、社会主義を資本主義に対応する経済システムとして理解できているのは一部のインテリ層だけで、一般的には、社会主義即ち独裁主義、資本主義即ち民主主義、社会主義即ちあらゆる個人の権利の否定、資本主義即ち個人の自由と思い込んでいる人がマジョリティだと思われます。

数年前、「富の再分配を」といったオバマに、共和党は鬼の首をとったように「オバマは社会主義者だ」と大騒ぎしました。これに対するオバマの反応も自分は決して社会主義者ではない、というものでした。つまり社会主義者といわれたら、アメリカの政治家はおしまい、というコンセンサスがあったのです。

だから、自ら社会主義者を標榜するバーニー・サンダースがここまで健闘するとは誰も思いませんでした。バーニー・サンダースは一貫して「トップ数パーセントが独占している富を公平に再分配しよう」と主張していて、富裕層の税負担増、学費の無料化、産休の法定化(アメリカの子育て支援の悪さは先進国中だんとつトップです。)などを打ち出しています。社会主義者といわれたくないがために、オバマも歯切れが悪くなっていた「富の再分配」をはばかることなくうたい、これが予想に反して支持されているのです。

そういう意味では、バーニーもポピュリストです。トランプが、セクハラ発言、人種差別発言というプロの政治家がタブー視していた地雷をすすんで踏みまくりながら、政治的に葬られることなく支持を伸ばしてきたのと同様のことが、リベラルの間でも起こっているわけです。踏んでる内容はサンダースのほうがずっと上等ですが。
だいたい、論理的に考えれば一部の富裕層以外の大多数が「富の再分配」を支持しないほうが不思議なのですが、これまでは、アメリカ人の社会主義アレルギーは資本主義ファンダメンタリズムの維持、つまり金持ちや大企業の利益維持にうまく利用されてきました。それが、さすがにきかなくなった。若い世代には社会主義アレルギーがうすれているうえに、富の集中が進みすぎて、教育のあるミドルクラスの生活までもが苦しくなり、無邪気にアメリカ・イズ・ナンバーワンなんぞと思っていられなくなっているからです。

利用するということでいえば、貧乏人をうまくまるめこむのは共和党の得意技です。政策がどうみても金持ち保護なのに、レッドステートと言われる保守的な州には信心深くて貧乏な共和党支持者がかなりいます。あえていいますが、共和党は馬鹿の扱いがうまい。というかうまかった。「馬鹿とはさみは使いよう」。これが共和党の戦法だったんですが、それがここ10年くらいうまく使えなくなってきています。サラ・ペイリンあたりから、使っていたつもりの道具が共和党のエスタブリッシュメントの手を離れて暴走しはじめたのです。ティーパーティも保守系の草の根運動としてもちあげてるうちに、いうことをきかなくなってしまいました。そして、その極めつけがトランプです。

保守もリベラルも、中間層も、今アメリカ人は「エスタブリッシュメントは信用できない」という同様の思いをもっています。それが、かたやトランプ、かたやサンダースへの支持につながっています。ヒラリーは今や、初の女性大統領候補というリベラルな存在ではなく民主党のエスタブリッシュメントとして見られています。選挙資金ではサンダースはヒラリーに遠く及びませんが、サンダースのラリーには会場に収まりきれないほどの人が集まります。今のヒラリーでは有り得ないことです。

去年の秋ごろまでは支持をのばしたところでサンダースがヒラリーに届くことはまずない、と思われていましたが、最初の予備選挙となるアイオワ州予備選挙の予想ではサンダースはヒラリーまで数パーセントのところまで迫っています。が、ここにきてサンダースが勝つかもということになると、サンダース支持者の中にもあらたな心配が生まれてきます。万が一トランプ対サンダースということになると、アメリカのマジョリティはサンダースよりトランプを選んでしまう、という最悪のシナリオが現実味を帯びてくるからです。トランプをアメリカの恥と考えるアメリカ人も少なくありませんが、社会主義アレルギーはまだ根強い。しかもサンダースはユダヤ系です。非キリスト教徒の社会主義者なんて、保守系の州ではそれだけでゲームオーバーになる可能性は高い。保守系ばかりか、民主党のエスタブリッシュメントだって社会主義者は認めないに違いない。サンダースを支持したいけど、サンダースを選んじゃってトランプに負けたらどうしよう、と思うわけです。

一方で、社会主義者かトランプかという選択を迫られたって困るのは共和党支持者も同様です。共和党エスタブリッシュメントだってトランプなんか嫌に決まっている。ここをついて出てきたのがブルームバーグです。元ニューヨーク市長の億万長者ブルームバーグがインディペンデントとして立候補するかもと言い出しました。今頃になって、と思いますが、トランプ、サンダースと並べば、ブルームバーグが一番オーセンティックに見えます。好感度の点で、ヒラリーともいい勝負か、勝ってるかもしれない。資金は自腹で潤沢にあります。

今やブッシュ再選時を超える危機感で、まじでやばくね、と思ってるアメリカ人はたくさんいそうなので、ブルームバーグ参戦を支持する人は少なくないと思います。「トンビにあぶらげ」ってことも多いに有り得ます。

面白すぎる2016大統領選挙。面白い選挙なんて、安心感がないってことでろくなことじゃありません。お願いだから、トランプおよびその他の共和党トンデモ候補だけは選ばないでほしい、世界のためにも。