トランプ大統領3「今何が起こっているのか」

トランプ大統領下で起こってくる問題は、連邦裁判官の任命権だの健康保険の先行きだの、誰でも予想できる問題が山のようにあるのですが、選挙からわずか1週間もたたないうちに、先の問題を云々するどころではなくなってしまいました。それはもう引き継ぎ準備1日目から、次々とありえない問題が勃発するからです。

というわけで「これから何が起こるのか」は、また先送りで、とりあえず「今何が起こっているのか」です。

日本では安倍総理がいち早くトランプと会見を行ったことが大きなニュースになっていました。会見前夜から、他国の首脳に先駆けて日本の首相が一番にトランプとの会見をとりつけた、と日本のニュースで報じられていましたが、同じころにアメリカで今一番人気のある政治番組「Rachel Maddow Show」では、日本の首相との会見が別の意味で取り上げられていました。なんと、会見が翌日に迫っているにも関わらず日本側に、会見の場所も時間も出席者も知らされていないというのです。そのうえ、日本側は誰に問い合わせればいいのかもわからなくて困っていると。

これは別に日本が軽視されているという意味ではありません。ことほどさように誰もがトランプと連絡がとれなくて困り果てている、外国の首脳ですらこの有様というトランプチームのディスファンクションぶりの例として挙げられたのです。本来なら新大統領はできるかぎり早く各部門からブリーフィングを受けなければなりません。国務省からのブリーフィングを受けなければ、外国の首脳との電話会談だってできないはずなのに、トランプはつかまらない。

それだけではありません。主要な役職を早急に任命して、その引き継ぎもしなければならないのに、それも一向に進んでいない。現政府関係者の不安は増すばかり、といった報道が相次いでいるところにポストされたトランプのツイッターがこれ。

「Very organized process taking place as I decide on Cabinet and many other positions. I am the only one who knows who the finalists are!」

「閣僚選びはすべて順調。ファイナリストを知ってるのはオレだけだ!」って、この男、まだ大統領選をリアリティショーと勘違いしています。首相が代わっても各省庁の首がすげ代わるだけで官僚はそのままの日本の制度と違って、アメリカでは大統領が代わると官僚からホワイトハウスのスタッフまで全員が総取り換えです。何千人というポジションを決めなければならないのに「オレだけ」でどうするって話です。Very organizedなわけがありません。

そもそも誰も予想だにしなかったトランプ当選。トランプ自身だって本気で大統領になるつもりなんかなかったに違いありません。本人だって周囲だって当選後の実務なんて本気で考えていたわけがないので、スムーズにいくわけがないのです。

そのうえ、選挙戦中にトランプの三銃士と呼ばれ、トランプがどんなトンデモ発言をしようが無理やりな言い訳をし続けたクリス・クリスティ、ニュート・ギングリッチ、ルドルフ・ジュリアーニは、プロの政治家とはいえ揃いも揃ってあまりにも問題をかかえすぎた崖っぷち野郎ばかり。忠誠心を大切にする(らしい)トランプがいくら三銃士を閣僚入りさせたくとも、そうは簡単にはいかない。

そこにもってきて、政権移行チームをリードするはずだったクリスティがいきなりチームから外され、クリスティの息のかかったスタッフは全員辞任というクリスティ・パージ。原因は、選挙間際のトランプのセクハラスキャンダルで弁護しなかったからとも、クリスティが検事時代にトランプの娘婿の父親を牢屋に送ったからともいわれます。何が本当の理由かはわかりませんが、まるでマフィアの報復劇。クリスティの方だって、ブリッジゲート・スキャンダル(アメリカ大統領選ウォッチ6「共和党がまじでやばい」参照)で選挙と前後して部下に有罪判決が下り、本人が訴追されないことが不思議な状態、とマフィア度ではどっこいです。

そして、クリスティのかわりにチームリードとなったのは副大統領のマイク・ペンス。が、このマイク・ペンス、政権移行チームをリードするのに必要な書類のサインを忘れ、またそこで遅れをとる。いまさら驚くことでもありませんが、チームの誰も実務を把握している人はいない模様です。それだけならまだしも、チーム内には通常ならありえないようなエグい面子が目白押しで、それがいちいち物議をかもす。

中でも一番問題視されたのが選挙アドバイザーからトランプ政権の戦略アドバイザーとなったスティーブ・バノンです。右翼の白人至上主義者として知られる人ですから、いくら保守の共和党の大統領だって、普通ならわざわざチームに入れたりはしません。が、そこが「忠誠心を大切にする」トランプです。

そして、政治のアウトサイダーだから献金やしがらみのない、国民のための政治ができると豪語していたはずなのにチームはロビーストだらけ。政治家に裏から働きかけていたロビーストが、そんなまどろっこしいことしなくても直接仕事ができるという最高にインサイダーフレンドリーなチーム。ロビーストまみれと批判されたのに慌てて、ペンスはロビーストを一掃すると宣言したのですが、もちろんそんな形ばかりの首のすげかえでロビーストの影響がなくなるわけはありません。世間様が信用せんわ、と言いたいところですが、トランプを選んじゃった世間様が、いつ気づくのかはわかりません。

トランプチームの問題はロビーストによる大企業の営利だけではありません。トランプチームには、トルコだのロシアだの問題になりそうな国と関わりをもっている「コンサルタント」がごろごろいます。そして、何よりも大きな問題なのはトランプ自身です。トランプ・エンタープライズそのものが大統領としてconflict of interest(利益相反)になります。なにしろトランプの名前のついたビルやらゴルフ場やらが国内ばかりでなく、外国にもたくさんあるのです。もう汚職の種はありまくりです。

そもそもトランプは60年にわたる大統領候補の中で、唯一税金申告書を公開しなかった候補です。大統領候補になれば税金申告書を申請して財政的な公正さを証明するのは常識とされてきましたが、トランプは相次ぐリクエストにも関わらず最後まで拒否し続けました。法律的な義務ではないので、それでも押し通せたわけです。実は違法すれすれの税法の抜け道を使って、この10年まったく連邦税を払っていない(今後数年も払わないですむ)ということがリークしても、しゃあしゃあと「それはオレが頭がいいからだ」とぬかしていました。今後も法律を破っていない(と解釈できるものなら)なんでもあり、に決まっています。

こんな形の国際企業の経営者が大統領になったことはアメリカの歴史上ありません。歴史上ない、ということはどういうことかというと規制する法律が整っていないということです。想定外ですから。もちろん、お金持ちの大統領はこれまでだっていました。というか、大統領になる時点である程度の財産はあるのが普通です。そこで利益相反を未然に防ぐために、歴代の大統領は財産を白紙委任信託(blind trust)にしてきました。白紙委任信託とは、財産を第三者に託して、本人にはその信託の状況をまったく不明な状態にするということです。

が、トランプが主張するのはトランプ・エンタープライズは「3人のこどもたちにblind trustとして託して経営させる」。子どもは第三者ではありません。ですから、それではblind trustではないし、利益相反の防止効果はまったくないわけですが、トランプとそのチームはそれをblind trustと言い続けています。そればかりではありません。その3人のこどもたち、ドナルド・ジュニアとエリックとイヴァンカ、およびイヴァンカの夫、ジャレット・クシュナーは政権移行チームのメンバーでもあります。つまり政府の要職の任命に関わる子どもたちが、政権移行後はトランプ・エンタープライズを経営するというわけです。

そもそも自分の家族を政権移行チームに入れるということ自体が前代未聞です。が、禁じる法律がないのでできてしまいました。白紙委任信託にすることも法律で義務化されているわけではありません。これまですべての大統領が常識として行っていたのは、わざわざ疑いを招くような、悪くすれば弾劾につながりかねない状況を放置すればろくなことにならないと信じていたからです。

トランプの家族経営は政権移行チームだけにとどまりません。トランプは娘婿のジャレット・クシュナーをホワイトハウスのスタッフにすると主張しています。これには、家族をAgencyとして雇うことを禁じたanti-nepotism lawがあるのですが、Agencyの解釈が微妙で、無給であれば法的には可能になってしまうというのです。しかもジャレット・クシュナーは政治家でもなんでもありません。その妻のイヴァンカが兄2人と一緒にトランプ・エンタープライズの経営を任されるというのですから、もうありえないくらいうさん臭い。とても先進国の近代国家の出来事とは思えません。

さあ、ここでまた「どこの国の首脳より早く」トランプと会談したわれらが安倍総理です。安倍総理はトランプとは気が合うかもと言っていたそうですが、それはそうでしょう。「美しい国、日本」に「make America great again」。中身のないスローガンのコンセプトまでなんだかかぶってます。この会見はアメリカでも話題になりました。内容ではありません。そこにイヴァンカとジャレット・クシュナーが同席していたからです。

外国の首脳との会見の場に政府と無関係な家族を同席させるなんてありえないというわけです。情報の機密性の問題はもとより、日本がトランプ大統領の政策に影響を与えるために、イヴァンカ・トランプの日本でのビジネス展開に進んで便宜を図るといった可能性だってあるわけです。そもそもトランプ・エンタープライズそのものの扱い自体も問題です。例えばトランプタワーを日本に作ろうと思えば、日本政府とのパイプがあれば有利に決まっています。

そんな物議をかもすのがわかっているような会見写真をトランプチームは、なぜわざわざ公開したのか。共和党内でも反対の多いであろうジャレット・クシュナー採用を既成事実にしようとしたのか、それともただ状況を理解していなかったのか。理由はわかりません。が、この会見の相手となった日本がどう見えるかというと「微妙」。少なくとも「日本の外交が巧みで、各国を出し抜いて新政権とのアメリカ外交でリードした」というふうには絶対に見えません。おそらく他の国は今は様子を見ているのです。

まだまだ本当にトランプ政権がどう実現するのかさえ、見えていません。事態が現実味を帯びてくるほどに、トランプは本当は大統領になんてなりたくないに違いないと思えるばかりです。ビジネスを本当のblind trustにするくらいなら、大統領をおりたほうがましと思っているに違いありません。陰でペンスに代わってくれと言っていても不思議はありません。

先週は、新たに司法長官に指名されたジェフ・セッションズが物議をかもしました。1986年にレーガンに連邦判事に指名されたものの人種差別的発言で上院の承認を得られなかったという経歴の持ち主だからです。今よりよほど社会が保守的だったはずの1986年の時点で承認を得られなかった人が今よみがえるというのですから恐ろしい話です。

一方で共和党内の反トランプの急先鋒だったロムニーが国務長官に指名されるかもという説も浮上しています。あれだけトランプに冷たかった共和党エスタブリッシュメントは、トランプ当選がまるで自分たちの手柄であるかのように大はしゃぎです。果たしてトランプは共和党エスタブリッシュメントの傀儡政権となるのか。独自路線を貫くのか。そもそも4年をまっとうできるのか。もしトランプが弾劾されたとしても、その後釜として大統領になるのは副大統領のあのマイク・ペンスですから(アメリカ大統領選ウォッチ15「副大統領はどうやって決まるのか」参照)、ある意味トランプより悪い。リベラルに逃げ場はありません。

トランプ政権で、これから何が起こるのかは今回の選挙で圧倒的な力を持った共和党がどうやってトランプと折り合っていくのかにかかっています。そして長期的には、惨敗民主党に2年後の中間選挙でせめて上院を取り戻すまでに立ち直ってもらわなければならないのですが、両党とも信じられないくらい変わっていません。これだけ天地を揺るがすような大統領選のあとでも組織というのは絶望的に変わらないものです。それについては次回に。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

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