トランプ大統領1「悪夢はなぜ起こったのか」

アメリカ大統領選は悪夢のような結果になりました。誰もが予想だにしなかったトランプ大統領の誕生です。積極的にでもネガティブチョイスでもヒラリーを支持していたアメリカ人、つまりトランプはありえないと思っていたアメリカ人(および米在住外国人)はいまだにショックから立ち直れていません。立ち直れる気もしません。それくらい絶望的な結果です。

11月8日の選挙日、7時ごろに仕事を終えてニューヨークタイムズの選挙サイトを見ると、開票が始まった州はどこもトランプが若干リードしていました。なんだか嫌な感じはしたのですが、その時点ではヒラリーの勝利確率はまだ80%を超えていました。が、テレビの前で選挙速報番組を見ているうちにどんどん状況が変わり、9時ごろにはトランプ勝利の確率が90%を超えました。そして11時頃にヒラリーの負けがほぼ決定的になるまで、9月11日のニューヨークテロの中継を見ていた時に匹敵するような「これからどうなってしまうんだろう」という恐ろしい不安感を感じていました。

嫌われ者合戦とはいえ、ほとんどの人が予想していたのはヒラリーが勝って、初の女性大統領が誕生して、まずはめでたいという結果でした。あちこちで選挙観戦パーティが行われていましたが、それは想定内の結果を予想してのこと。どの世論調査でも、どのメディアでもトランプに勝ち目なしとしていましたし、ろくでもない選挙戦が終わることにほっとしていたのです。が、ほっとするどころか、ニューヨークはどこもまるでお通夜のようになってしまいました。

今回の選挙は、選挙人獲得数ではトランプ(290人)がヒラリー(228人)に勝っていますが、票獲得数(popular vote)ではヒラリー(60,274,974票)がトランプ(59,937,338票)に勝っているというゴア対ブッシュの時と同じ結果になりました。アメリカ人の過半数がトランプを支持したわけではないのです。こういう結果になるのは南北戦争時代の遺物である選挙人制度のせいです。各州の選挙人獲得が獲得票の比率ではなく勝者全取りになっているので(アメリカ大統領選ウォッチ8「ニューヨークもLAもかやの外」参照)、州の90%をとって圧勝しても51%で辛勝しても一つの州で獲得できる選挙人数は同じです。また、赤(トランプ)と青(ヒラリー)で色分けされたマップを見るとトランプ圧勝のように見えますが、実は大都市圏をかかえる東海岸や西海岸各州、イリノイ州などで圧勝しているヒラリーのほうが全米での獲得票数は多いのです。選挙人制度のおかげで、大統領選挙はいつでもスイングステート(共和党と民主党が拮抗する州)に向かってお祈りするしかないという無力感を味わっているニューヨークやカリフォルニアの住民は余計にやりきれない思いです。そして、東海岸や西海岸の民主党盤石のブルーステートの大多数の住人にとって、トランプ支持者がマジョリティを占める州はまったく理解できない存在です。

ヒラリーの勝ち目がなくなってきたころから、選挙速報番組はどの局も、なぜ世論調査が揃いも揃ってここまで予想を外したのか、という議論に終始していました。口には出さなくても事前にこんなに接戦だとわかっていたら、これが防げたかもしれないということは多くの人が感じたはずです。つまりヒラリー陣営もヒラリー支持(反トランプ)者もトランプ支持者をみくびっていたのです。白紙投票や当選の見込みのない第三党候補への投票といったプロテスト投票の多くは、ヒラリー楽勝という前提に立っているはずなので、トランプ勝利という危機感があればヒラリー票になったかもしれません。勝敗を決めたフロリダやミシガン、ペンシルバニアなどは、どこも1~2%差の大接戦でしたから、プロテスト投票がなければ、あるいはもう少し多くの人が投票に行ってくれれば勝てた可能性はあります。

世論調査が大きくはずれた理由としては、トランプ票にはこれまで投票したことのなかった人の票が多かった、とか調査ではクリントン支持と答えながら実はトランプに投票した隠れトランプサポーターがいたから、など色々あげられていましたが、要するにこれまでの調査メソッドが使えなくなっているということです。それは大手メディアが流し続けた反トランプのメッセージがまったく伝わらなかったのと似ています。伝わらないのはマスメディアだけではありません。ネットの場合は余計に伝わりません。受け手が聞きたい情報だけにアクセスできるのがネットの本質だからです。

トランプを当選させたのは現代版のドブ板選挙です。大嘘を含め、支持者に受けそうなセンセーショナルな内容をまめにツイッターで発信していたトランプは、ヒラリーから「明け方の3時にツイートするなんて」とバカにされていましたが、あれはネット上のドブ板選挙だったんだな、と今にして思います。そしてネットのドブ板活動を拡散させたのは本物のドブ板、口コミやピアプレッシャーです。ニューヨークのようなブルーステートに住むトランプサポーターは隠れトランプサポーターとなるしかありませんが、真ん中のレッドステートにはトランプサポーターがあふれかえっていたはずだし、スイングステートにも多くのトランプエリアがあったはずです。アメリカは大都市中心部を除いて社会経済的な地域による住み分けがはっきりしているので、同じ州内でも両者の支持者が均等に拡散しているわけではありません。つまり誰もが自分のサイドの情報バブルの中に住んでいるのです。

もちろん、トランプ支持者へのインタビューはどこの局でもやっていました。トランプを支持する理由をきかれて「アメリカがモスリムになるのを防ぎたい」とか「ヒラリーに我々の銃を持つ権利を取り上げられないため」とか、頭おかしいんじゃないのかと思いたくなるようなことを答えている。でなければ「安い健康保険がほしいし、収入をあげたい」ともっともな要望ですが、何ひとつ具体策を挙げていないトランプにそれが可能だとほんとに信じてるのか。馬鹿じゃないのか、としか思えない。その発言をさせている空気感というのがわからないのです。外国に行って、一つ二つ質問してその国民を理解しようとするようなものです。

トランプが勝った要因の根本はトランプ支持者には熱意があって、ヒラリーには熱意のある支持者が少なかったからです。トランプランドのトランプサポーターはさそいあって、これまで選挙に行ったことのない人まで一緒に投票にいったでしょうが、ヒラリーにはそういうサポーターはいなかった。それはヒラリーが予備選挙のときから引きずっていた問題で、若い世代に熱狂的に支持されたバーニーに比べても、その差は歴然でした。バーニーだったらトランプに勝っていたでしょう。共和党に比べれば、まだエスタブリッシュメントの崩壊度が軽かった民主党は、その組織力でバーニーブームをねじ伏せてヒラリーに勝たせることができてしまったのも結果的には災いでした。

さらにバーニーに勝った後、その支持者であった若い世代の気持ちをなえさせてしまったのもヒラリーの次の敗因です。ウォールストリートと戦うリベラル派のスター、エリザベス・ウォーレンを副大統領に選べば、バーニー支持者の若者の熱気を取り込んで勝てたかもしれません。が、ティム・ケインのような保守的なエバンジェリカルを副大統領に選んだことで、ヒラリーはますますプログレッシブ路線から遠のいた印象を与えてしまいました。「そうか、予備選挙や党大会ではプログレッシブな路線を進めるといっていたけど、勝ってしまえばこっちのもので、またエスタブリッシュメント路線を進むんだな」と感じたバーニー支持者は多かったはずです。熱心なバーニー支持者はトランプ嫌いでも突出していますからトランプには投票しなかったでしょうが、予備選挙でバーニーのためにしたようなドブ板運動をする熱気はヒラリーには到底もてなかったのです。

そして、もう一つの原因がアメリカが女嫌いのマッチョ文化の国だということ。アメリカのマッチョ文化がいかに根強いかは、2008年にヒラリーがオバマに予備選挙で負けたときにも感じましたが、今回も改めて感じました。ヒラリーが楽勝と予想されていた裕福な郊外地区の多くでトランプが予想以上に票を集めたのも、口には出さずにトランプに投票した「隠れトランプ」がかなりいたということです。ヒラリーには問題もいろいろありますが、トランプの問題に匹敵するようなものではないし、何よりポジティブな実績もあります。正当な理由なくあれだけ嫌われるのはヒラリーが女であることと無縁ではありません。

一方、マッチョ思想をもたない若いバーニー支持者には、ヒラリーはずるいエスタブリッシュメントに見えてしまいました。ヒラリーの世代の女性たちは子供たちを誰でも平等に扱うという思想で正しく育ててきて、子供たちも期待に応えて育ちました。そして、自分はマッチョ文化の根強いアメリカのボーイズクラブの中であれこれ妥協しながら生き抜いてきたら、それが「女であること」が差別の対象にもならないけれど、プレミアムにもならない若い世代からは体制派に見えるだけというなんとも不幸なタイミング。かくして熱心な支持者は中高年のフェミニストだけということになってしまいました。

その中高年フェミニストを含め、予備選挙時に組織の力でヒラリー選出を後押していたことが暴露された民主党委員会の責任も糾弾されています。ヒラリー楽勝に加えて上院の過半数奪還、うまくいけば下院もとれるかもくらいに予想していたわけですが、結果的にはトランプに負けたばかりか確実視されていた上院の過半数もとれませんでした。7月の党大会直前に辞任した民主党委員長デビー・ワッサーマン・シュルツに代わる臨時委員長を務めていたダナ・ブラジルにも同じようなヒラリーびいきのメールが流出。党内の分裂は共和党と同じくらいに深刻です。次期委員長にはリベラルをという動きがありますが、今さら感はぬぐえません。選挙当日までは崩壊している共和党を高見の見物気分だった民主党の立場は今やすっかり逆転してしまいました。ヒラリー当確予想の前提となっていたブルーウォールと言われる五大湖周辺のかつての民主党盤石エリアでまさかの敗北を喫した民主党は、このままでは2度と政権はとりもどせません。

さて、世界中で報道されている通り、ニューヨークやシアトル、ポートランド、シカゴといった大都市で、メレニアル世代を中心にトランプ選出に対するプロテストデモが自然発生的に続々と起きています。いてもたってもいられない気持ちはとてもよくわかります。市内に住んでいたら私も参加したかもしれません。

が、トランプが勝ったレッドステートやトランプ支持地域ではどうなっているのでしょう。メレニアル世代というと都心部の学生ばかりが報道されますが、たとえ貧乏学生だろうと学生であるということはアメリカの恵まれた側にいるということです。トランプ支持地域にもメレニアル世代はいるはずです。メディアの報道はプロテストばかりで、トランプ勝利後もトランプ支持者についてのまともな報道はほとんどありません。メレニアル世代がトランプを支持していないという世論調査だって今となれば眉唾ものです。
圧倒的にトランプ不支持だったメディア(ジャーナリスト)もトランプ勝利のショックから立ち直れていないので、プロテストにシンパシーを抱くのは当然です。が、そもそもメディアがトランプ支持者を把握できていなかったことが敗因の一つなのだとすれば、本当は今こそトランプランドを本気で取材しなければならないはずです。予定調和の外人インタビューみたいな報道では何もわかりません。トランプが「メディアは公平ではない」というのも、ある意味で正しいのです。

そして、変わらないのはトランプも同じです。トランプがプロテストに対して出したツイートがこれ。
「Just had a very open and successful presidential election. Now professional protesters, incited by the media, are protesting. Very unfair! 」
(公正な大統領選で勝ったら、メディアにそそのかされたプロのプロテスターがデモを始めた。アンフェアだ!)
Unfair!ってお前は5歳児かっ!と言いたくなるような相変わらずの反応。プロのプロテスターという大嘘も相変わらず。スタッフの言うことをきいて、おとなしくプロンプターの言うことを読んだ勝利宣言がまともだったからといって安心しちゃあいけません。トランプはトランプです。各地でのプロテストが大々的に報道されている以上、トランプとしては支持者に対して、こうしたドブ板ピンポイント・ツイートをしないではいられません。これで勝ったのだという自負があるので、まわりが何といってもきかないでしょう。

一方、棚から牡丹餅のように勝利を手にした共和党。トランプのキャンペーン中は物陰に潜んでいたくせに、勝ったとたんにまるで自分たちの勝利であるかのように調子づいている上院議長のミッチ・マコーネルや下院議長のポール・ライアンは見るだけでもイラっとします。が、上院、下院ともに過半数を守った以上、トランプ大統領下で何が起こるのかは、共和党にかかっています。その共和党がガタガタなのはすでに分かっているので、これがトランプ大統領登場の不安にさらに拍車をかけているのです。その「これから何が起こるのか」は次回で。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

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