アメリカ大統領選ウォッチ12

アンバウンドデリゲートってなんだ?

大統領予備選挙もいよいよ大詰めにさしかかりました。1月から、その時々で話題になっているトピックを取り上げてきたのですが、ふりかえってみるとこの3ヶ月で選挙戦をめぐるアメリカ全体の空気がずいぶん変わってきています。この大統領選ウォッチの第1回のタイトルは「アメリカは社会主義アレルギーを克服できるか?」でしたが、バーニーが善戦を重ねている今見れば間抜けなタイトルで、実は社会主義アレルギーなんて、政治家やメディアの思い込みの中だけに残っていたものだったのです。ほかにも、絶大なはずと思い込んでいたエスタブリッシュメントの力がそうでもなかったとか、ポリティカリーコレクトネスは政治家の命じゃなかったとか、予備選挙って実は全然民主的なシステムじゃなかったとか、常識と思い込んでいたことが、バンバンくつがえってきました。民主党の予備選挙の空気でいつのまにか大きく変わったのは総選挙での予想です。

1月の時点では、社会主義者でユダヤ人のバーニーは総選挙で共和党に負けてしまうのでは、という心配がバーニー支持者の間にもあり、ヒラリーの一番の売りは総選挙で勝てそうなこと、と思われていました。が、今やこれはすっかり逆転しています。数ある調査のほとんどすべてで共和党のどの候補に対してもバーニーは優勢で、その差はヒラリーを上回っています。さらに、ヒラリーはトランプにこそ勝てる予想が出ているものの、クルーズでは調査によりけり、対ケーシックではさらにそれが危ないと予想されています。今では逆に、「ヒラリーが勝ちそうだけど、はたしてヒラリーは総選挙で共和党に勝てるのか」という危惧が民主党支持者の間には生まれています。

直近の予備選挙で6連勝しているバーニーですが、獲得デリゲート数の差はあまり縮まっていません。民主党の場合、共和党のような勝者総取り州はないので、デリゲート数の多い州で大勝しないかぎり目立った追い込みはできないのです。そしてもちろん、デリゲートのうち15%近くを占めるスーパーデリゲート(予備選挙と関係なくデリゲートとしての投票権をもつ民主党幹部)がほぼヒラリー総取りという状況も揺らいでいません。そこで291人のデリゲートをかけた火曜日のニューヨーク州の予備選挙が注目されているわけですが、それも予想ではヒラリーが大幅にリード。ニューヨーク州の場合はその場で投票登録できるオープンプライマリーではなく、既に登録済みの党員のみが投票できるクローズドプライマリーなので、支持基盤が若者であるバーニーには不利です。また、ニューヨーク市周辺こそリベラルですが、アップステートには広大な保守エリアがあり、地元上院議員として長年選挙運動を展開してきたヒラリーに有利に展開するといわれています。バーニーのニューヨークでの集会は、オバマの記録を破る人数の聴衆を動員し、一見ヒラリーよりはるかに人気があるように見えますが、その人気ほどには予備選挙のバーニー票は伸びないものと思われます。つまり、ヒラリー勝利の可能性はますます高く、本選挙への心配もますます大きいというわけです。

一方の共和党ですが、もはや状況はトランプに過半数を取らせないための共和党対トランプの戦いと化しています。トランプが予備選挙で過半数にあたる1,237のデリゲートを獲得すれば、共和党候補はトランプとなります。が、トランプのトップの座はゆるがないものの、過半数の1,237をとるのは難しいと予想されています。

獲得デリゲートが過半数に達する候補がいない場合は、7月の党大会(コンベンション)で決戦投票が行われることになります。決戦投票では誰かが過半数をとるまで繰り返し投票が行われます。これがコンテスティド・コンベンション(contested convention)です。同じメンバーで何度投票したって結果は同じだろうと思うかもしれませんが、これが違うのです。デリゲートというのはプライマリーやコーカスで選ばれた各州の代表であり、どの候補に投票するかは予備選挙の結果により予め決められているのですが、だいたい2回目または3回目の投票から誰に投票してもよくなるのです(何回目から自由に投票できるかは州によって異なります)。

そこで、大きくクローズアップされてくるのが、デリゲートって何者?ってことです。これまで、デリゲートなんてプライマリーやコーカスといった予備選挙で決まった候補に投票しに行くだけの伝書鳩みたいな存在だと思われていたのですが、実はそうではなかったのです。いったんコンテスティド・コンベンションになると、党の候補選びは予備選挙の結果に関わりなく、デリゲートの意思ひとつにかかってきます。この肝心のデリゲート選定には州によってまったく異なるルールがあり、しかもそのルールは複雑です。だいたいにおいて投票者とは関係のないところですすめられます。中にはプライマリーで獲得したデリゲートの数だけ決まって、誰を選ぶかは後から決めるシステムになっている州もあります。つまり、トランプに割り当てられたデリゲートがトランプ支持者であるとは限らないのです。

また、さらに複雑なのはアンバウンド(unbound)デリゲートの存在です。民主党にスーパーデリゲートがいるように、共和党にはアンバウンド、つまり最初から投票先に縛られずに好きな候補に投票できるデリゲートが存在します。その有無や数は州によります。たとえば、アンバウンドデリゲートが極端に多いペンシルバニア州では71人のデリゲートのうち54人がアンバウンドデリゲートです。また、共和党には、ノースダコタ、コロラド、ワイオミングといったプライマリーもコーカスもやらずに州の党大会で決めるアンバウンドデリゲートだけを送り込んでくる州もあります。

つまり党大会での決戦投票に備えるには、プライマリーやコーカスで勝つだけでなく、どれだけ本物の自分の支持者をデリゲートにするかということが重要になるのです。それには、各州のルールや共和党内部の事情に精通していることが大切になりますが、そうなるともちろんトランプには不利です。コロラド州党大会では37人のデリゲートのうち34人をクルーズにさらわれました。

さて、このアンバウンド・デリゲートは、今回のような接戦の場合には大きな力をもつことになります。そして、民間人なので政治家のような贈収賄禁止法には縛られていません。なんといっても政党とはプライベートクラブみたいなもので、大統領候補はプライベートクラブの代表を選ぶようなものなのです。党や政府での役職を引き換えとすることは違法とされていますが、金銭相当の授受についての規制はかなりゆるいというか、グレーエリアなんだそうです。党大会開催都市までの豪華な旅行やお食事などは当たり前。ロナルド・レーガンはハリウッドスターに会えます、なんてこともやったらしいです。

これまで、デリゲートなんて誰も注目してこなかったので、さりげなくこうした賄賂まがいのことが普通に行われてきたわけですが、これだけ注目を集めてしまった今回は、トランプだってクルーズだって、あからさまな接待はできません。デリゲートの方だって、誰が何をもらったなんてことをツイートされたら一気に炎上しかねないので、これまでのようにだまって特権を楽しむわけにはいきません。かえって、これまでより正当なやり方で獲得していくしかないものと思われます。

さて、共和党はトランプ以外全員が一丸となって、党大会をコンテスティド・コンベンションにするべく励んでいますが、実は決戦投票にはそれぞれが全く異なる思惑をもっています。2位につけているクルーズはもちろんトランプに代わって候補になる気満々です。大きく引き離されているケーシックだって、決戦投票になれば獲得デリゲート数など関係ないので、党大会では本来正統派である自分にこそチャンスがあると、これもやる気満々です。さらにコンテスティド・コンベンションでは、これまで候補でなかった候補を新たに選ぶこともできます。共和党エスタブリッシュメントが7月の党大会で狙っているのは実はこれだとずっと言われていて、現下院議長のポール・ライアンを出してくるのでは、というのがもっぱらのうわさです。もう何がどうなるものかさっぱり予測がつきません。

また、予備選挙開始時には、自分が負けても、最終的に共和党候補として選ばれた他の候補を支持する(無所属としては出馬しない)ということを全員が宣誓していましたが、その宣誓は既に全員が撤回しています。獲得票数がトップにも関わらず、他の候補が選ばれたらトランプは無所属として出馬する可能性があります。また、トランプが予備選挙で過半数に達して共和党候補となったら、無所属で保守派候補をたてる共和党の一派が出ることも考えられます。実は、このシナリオは民主党にとって何よりの脅威になります。

1月の時点では無所属での出馬を考えていたブルームバーグは3月に不出馬を表明しました。その理由の一つが3候補による選挙戦では誰も過半数をとれない可能性があるから、というものでした。大統領候補が本選挙で誰も過半数をとれなかった場合、アメリカの法律では、決断はコングレス(国会)にゆだねられるのです。そして今、国会のマジョリティは共和党です。

つまりもし3者レースとなった場合、共和党は勝つ必要はないのです。民主党候補(おそらくヒラリー)に過半数をとらせなければ、好きな候補を大統領にできることになります。3人目が誰になるかはわかりませんが、ともかくトランプ+共和党候補であることはまちがいありません。実質的に、民主党候補は2対1のレースを強いられるようなものです。このことについてなぜ誰もあまり言及しないのかわかりませんが、私はこれが一番おそろしいシナリオだと思っています。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

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