アメリカ大統領選ウォッチ11

中絶は共和党の政治の道具

さて、先週土曜日の民主党予備選挙(共和党はなし)、ワシントン州72%、ハワイ州69%、アラスカ81%と、すべてバーニー・サンダース圧勝。予想されていたこととはいえ、事前調査以上の大差に、ヒラリー鉄板という予想がぐらついてきました。次のウィスコンシンもバーニーの勝利が予想されていて、その次の大票田であるニューヨーク州に注目が集まっています。つまり、珍しくもニューヨーク州が予備選挙に重要な役割を果たすことになりそうです。

一方の共和党は、来週のウィスコンシンまで中休み状態ですが、相変わらずそのドタバタぶりでメディアを独占しています。ここ数日物議をかもしているのはまたしてもトランプ。トランプの「違法中絶した女性には罰則を」発言です。MSNBCのインタビューで「ぼくはプロ・ライフ(中絶反対)だ」と言ったことから、インタビュアーのクリス・マシューに「では中絶が違法だとしたら、中絶を受けた女性には罰則が必要か」としつこく理詰めで問い詰められたトランプ。なりゆきで「なんらかの罰則が必要だと思う」と言っちゃったのが、大炎上。メディアや民主党候補はもとより、共和党の対立候補にまで女性の敵として責められることになりました。

このビデオの10分目くらいからです。

これだけ聞くとトンデモ発言みたいですが、実はこれ、素直にロジックに従ったらこうなっちゃった、というむしろプロの政治家でないナイーブさの証明みたいなものです。ここでもトランプはまた新たな共和党のパンドラの箱をあけちゃってるのです。クリス・マシューの質問の仕方も、トランプの意見をきくというよりも、プロ・ライフという共和党の主張そのもののうそ臭さをあばこうとしているようにきこえます。

中絶の是否がこの21世紀に先進国で政治問題になっているということ自体が信じがたいですが、アメリカでは中絶問題は、ここ数十年ずっと政治の道具として使われてきたのです。共和党と民主党できっぱり主張が分かれる社会問題がいくつかあるのですが、中絶もその一つです。民主党は「女性の身体の問題は女性自身が決めることである」というプロ・チョイス、共和党は「胎児は神から授かった命であり、それを殺す中絶は殺人である」というプロ・ライフです。ちなみに現在、アメリカでは州によって制限はありますが、中絶は合法です。つまりそれを制限しようというのがプロ・ライフの主張ということになります。

中絶の違法化っていったいいつの時代の話だよ、と思いますが、アメリカには大変信心深いクリスチャンが一定数いて、他の政策には同意できなくても、この一点だけで共和党に投票するという人もいるのです。そこまで熱心ではなくともカトリックの教義に基づくことを望ましいと思う人は少なくありません。保守層を基盤とする共和党は、こうした超保守層にアピールするために1960年代から中絶には反対の方針を貫いてきました。が、それは女性の権利に反する主張であり、今となっては時代にそぐわないことも確かです。それを厳格に貫いては女性票も中道票も離れていってしまいます。ですから保守層対策としてプロ・ライフを主張しても、具体策についてはできるだけ語らないというのが共和党のポリティカルトークなわけです。

共和党の政治家はプロ・ライフということになっているのですが、もちろん全員が心からプロ・ライフなわけではありません。むしろ今時心から中絶反対の共和党の政治家なんてそうはいないでしょう。そこをついたのがクリス・マシューの質問です。「プロ・ライフってことは中絶をした女性には罰則が科されるってことですか。ぼくはいつもプロ・ライフって理解できないんだけど。法律で違法とするなら、それに対する罰則があってしかるべきでしょう?」

こういう質問の正しいかわし方は、「中絶手術を行うことが違法なので、罰則は医師に適用」です。これなら女性の敵にならずにすむし、中絶を行う医師がプロテストすることもまずありません。こずるい詭弁ですが、ベテランの共和党の政治家なら、そんなことは基本中の基本です。が、トランプはベテラン政治家ではなかった。だいたいトランプの場合、プロ・ライフという立場そのものがいかにも付け焼刃です。大統領候補になるまでは中絶のことなんて頭の片隅にもなかったにちがいありません。

そして、とりあえず共和党候補となった今、自分はプロ・ライフである。プロ・ライフは中絶を違法としようという主張である。違法行為には罰則がなければならない。したがって中絶をした女性には罰則が科されて当然である。という論理展開は実に正しい。インタビューではいかにも進退窮まっているのがわかりますが、論理的に考えるほど「罰則は必要」になってしまうのです。後から発言を撤回して「罰則は中絶を受けた女性にではなく、中絶手術を行った医師に適用」と訂正していましたが、後のまつりです。

さて、これに対して鬼の首をとったようにトランプを女性の敵よばわりした対抗候補のクルーズですが、超保守候補であるクルーズはバリバリのプロ・ライフ。中絶は何が何でも反対。プランド・ペアレントフッド(バースコントロールや中絶に加え、癌予防その他の婦人科系の医療サービス全般を提供している非営利団体)を目のかたきにしています。「胎児だけではなく、その母親も大切にするのが、プロライフだ(だから母親に罰則は言語道断)」って、どの口が言ってんだよ、と思いますが、こういうことをしゃあしゃあと言うところがいかにもクルーズです。

中絶に対する態度には同じ共和党候補でも保守度によって温度差があり、保守中道のケーシックは例外付きの中絶反対ということになっていて、できればその点については話題にしたくないな、という姿勢です。これまでの共和党の大統領候補あるいは大統領は、だいたいこの路線の「一応プロ・ライフ」だったのです。が、中道保守が売りのケーシックも、トランプの失策に黙っているわけはありません。メディアはトランプバッシングの嵐となり、なりゆきで共和党のポリシーに従っただけだったトランプはいつのまにか中絶反対最右翼のようになってしまいました。実際のところは、トランプの対応のまずさが政治家としてどうよ、ということはあっても、中絶問題についてはクルーズのほうがよほどたちが悪いのは明らかです。こう大騒ぎすることもあるまいと思うのですが、今や共和党も民主党もメディアもトランプのネタはどんなことでも徹底的にくいつくことになっています。既に民主党の予備選に勝つことを予想して11月の本選挙に向けてトランプ対策をすすめているヒラリーももちろん即座に攻撃していました。

この点について唯一まともなことを言ったのがバーニー・サンダースです。インタビューでトランプ発言について語っていたのがこんなこと。

この動画の15分目くらいからです。

 

「もちろん中絶を受ける女性に罰則なんて言語道断だ。でも、それは別として、また、こうやってトランプのくだらない発言でメディアが1週間もちきりになることが問題なんだよ。最低賃金とか税金とか地球温暖化とか、ほんとに話さなきゃならないことはまったくメディアに出ないじゃないか。」

ものすごくまっとうな意見です。が、このまっとうな意見にわざわざかみついたヒラリー。
「バーニーは中絶問題をとるにたらないといっているが、中絶問題は女性の権利の重要な問題であって経済問題よりも重要性が劣るなどということはない」 バーニーが筋金入りのプロチョイスであることを知りながら、ポリティカルなロジックをふりまわしたあげあしとり。これだから嫌われんだよ、ヒラリー。バーニーにもまだ望みはあるとはいえ、ヒラリーが勝つ可能性のほうがはるかに高いんですから私たちだってヒラリーを好きになりたい、信用したい。が、ますます好感度が下がっていくヒラリー。本選挙がまじで心配です。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

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