アメリカ大統領選ウォッチ7

反知性主義はどこに向かうのか?

今日、3月11日はシカゴのトランプのラリー(集会)がサポーターとプロテスターの衝突により中止になったという話題でもちきりです。これまでもトランプの集会ではプロテスターがサポーターに殴られたり、小突き回されたりという事件が繰り返し報道されていたので、起こるべくして起こった事件です。こういう事態を招いたのはトランプ本人です。政治的な集会で小競り合いが起こることはめずらしくはないのでしょうが、トランプの場合は本人の対応が尋常ではありませんでした。壇上から「つまみ出せ!」と怒鳴った上に「昔はよかった、プロテスターなんかストレッチャーで運び出されたもんなんだよ」と、まるで暴力をあおるような言葉を連発。「けがさせるなよ。でももしケガさせちゃったら俺が弁護士費用出してやるから、安心しろ」って、まるで極道の集会。どうして、これで暴力教唆にならないのかと思いますが、ニュースに出てくる弁護士によると教唆にはならないらしいです。

まるで暴動に発展しかねないような今日のシカゴ集会のような騒ぎがあっても、トランプ支持者はびくともしません。そもそもトランプのサポーターはメディアなんか信用してないのです。反エスタブリッシュメントであり、反知性主義でもあるトランプサポーターにとってメディアはあちら側だから。

知性とは疑う能力、真実を知ろうとする意欲ですから、政治家にとって反知性主義は便利なものです。それを反エスタブリッシュメントにさらわれてあわててるのが今の共和党です。

が、実はこれに頭を抱えているのは共和党だけではありません。民主党やメディアも同様です。同じ反エスタブリッシュメントでも、むしろ知性主義の側にいるサンダース支持者も、トランプとそのサポーターに関しては同じような嫌悪感を抱いているのです。今回の選挙はエスタブリッシュメント対反エスタブリッシュメントという図式でよく語られますが、これをさらに複雑にしているのが、反知性主義です。

もともとアメリカの政治のシステムは反知性主義と親和性が高くできています。システム的に教育レベルの高い人口が集中している都市部の票の力が極端に低いのです。
たとえば上院議員の人数は人口に関わりなく各州2名ずつです。人口3,600万人のカリフォルニア州も人口53万人のワイオミング州も上院議員は2人ずつ。1票の重さで考えると、格差70倍以上というとんでもないことになっているのです。そして、特に反知性主義を全面的にバックアップしてきたのが共和党です。アメリカの州はそのほとんどが、いわゆるレッドステートといわれる共和党支持州とブルーステートといわれる民主党支持州できっぱり別れています。このマップを見ると共和党が田舎の州をおさえ、民主党が両海岸をおさえていることがわかります。

959px-Red_state,_blue_state_svg
都会のほうが一般的に教育レベルが高いことは、容易に想像がつきますが、次の修士号以上の学位をもつ人口の割合を州別に示すマップと並べると、ブルーステートの教育レベルが高いのがわかります。
Map_of_states_percentage_of_population_with_Advanced_Degree_in_2009_svg

ですから、反インテリ感をうまく利用するのは共和党の得意技です。
ジョージ・ブッシュは再選時に、民主党の対抗候補のケリーをお金持ちのインテリというイメージを植え付ける戦法をとって成功しました。ケリーがフランス語に堪能であるということさえもネガティブ材料になったのです。そしてマケインはサラ・ペイリンやら、プラマーのジョーやらをかつぎだして、国民を馬鹿にしてるんじゃないかと思うような戦法でオバマにいいところまでせまりました。
こういう歴史があるので、トランプは共和党が生み出したフランケンシュタインだという人もいます。望む方向と違う方向に向かい出した反知性主義に共和党はもうコミュニケーションの手段をもちません。そもそも論理で説得できるようなら反知性主義ではないからです。党幹部が音頭をとった大々的な反トランプキャンペーンにも関わらず先週の予備選挙ではアイダホをクルーズがとったのを除いてミシガン、ミシシッピ、ハワイとトランプが軒並み圧勝。党推薦のルビオはまったくふるわず、2位につけるのは常にクルーズ。

党幹部推奨の全員が一丸となって互いに譲り合って対トランプ戦略に望むという案はまったく受け入れられませんでした。クルーズはトランプに勝てる可能性があるのは自分だけだから、他の候補こそ撤退して、トランプとクルーズの一騎打ちにすべきだと主張しています。通常であれば、クルーズの主張は正しいのですが、問題はクルーズだって共和党の嫌われものだということにあります。討論会でトランプに「おまえなんか、上院にだれもお友だちがいないじゃないか」といわれていましたが、まさにその通りなのです。

現在のデリゲートの獲得数はトランプが459、クルーズが360、ルビオが152、ケーシックが54。候補になるのに必要なのは1237ですからまだまだ先は長い。しかも来週から、共和党の予備選挙はほとんどの州が勝者全取りとなります。しかもフロリダ、イリノイ、といった大きな州が控えているので、そこで勝てば一気に挽回ということも理論的には有り得ます。
現時点で最も可能性の高いのは、このままトランプの逃げ切り、次がクルーズの逆転、その次が誰も過半数にならずに党大会で決戦投票というところでしょうか。
一方、民主党はミシシッピ州は大差でヒラリーが勝ちましたが、予想に反してサンダースがミシガンで勝利。僅差ではありますが、この勝利によって、これから予備選挙のあるブルーステートでの強さに期待が生まれました。ヒラリーの強い南部はそもそもレッドステート。若年層と並んで高学歴層に支持者の多いサンダースはブルーステートに強いはずなのです。
トランプには、同じ反エスタブリッシュメントで話も分かりやすいサンダースの方が勝てる可能性がある、という意見もありますが、サンダースは反知性主義の対極にいます。わかっている人間が考える「分かりやすい」は往々にして見当はずれなものです。反知性主義+反エスタブリッシュメントに対抗するには、エスタブリッシュメントと反エスタブリッシュメント+知性主義のどちらが強いのかは、蓋を開けてみないとわかりません。

いずれにしても民主党は反知性主義者の扱いを知りません。不気味なのはこの反知性主義のトランプサポーターがどのくらいいるのか見当がつかないということです。どうせ泡沫候補といわれながら、次々と支持を伸ばし、予備選では軒並み勝利を収めているトランプは大統領選でもこれまで共和党が夢にもとれると思わなかったニューヨーク州だってとってみせる、と豪語しています。トランプが大統領になるほどアメリカはひどい国じゃない、と信じたいところです。

 

*アメリカ大統領選ウォッチ6「共和党がまじでやばい」の党大会決戦投票の過去の年代に誤りがあったので訂正しました。最後に党大会で決戦投票になったのは1976年です。1932年は党大会決戦投票で選出された候補が大統領になった最後の年です。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

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