アメリカ大統領選ウォッチ6

アメリカ大統領選ウォッチ6

共和党がまじでやばい

サウスカロライナに続き、Super Tuesdayでも黒人層の多い南部州を中心に圧倒的な強さを見せたヒラリー。これでサンダースの勝ち目はなくなったのではないか、というのが大方の予想です。が、バーニーの存在によってヒラリーは対抗手段として、よりリベラルな方向に進まざるを得ないので、たとえ勝たなくても応援する意味がある、というのが民主党リベラルのスタンスです。そういうわけで、民主党も引き続きそれなりに熱い戦いが繰り広げられています。しかし、現在、ニュースは共和党のトランプがらみ一辺倒です。

Super Tuesdayで圧倒的な強さを見せたトランプ。共和党エスタブリッシュメント一押しの対抗馬だったはずのルビオが勝てたのはミネソタのみ。あとはほとんど次点にもならず3位に甘んじました。どう考えてもルビオでトランプ打倒は無理がある。が、どうしてもトランプは阻止したい共和党エスタブリッシュメント。そこで、もうこの際2番手のクルーズでいくしかないんじゃないか、という意見もあるのですが、このクルーズだって反エスタブリッシュメント。共和党内の嫌われ者で通っていますから、素直に応援してもらえるわけがない。だいたいがルビオ一押しといったって、最初から足並みなんて全然そろっていませんでした。

まず撤退したブッシュですが、ブッシュにとってルビオは政治家デビュー当時からひきたててやった舎弟のようなもの。それが自分と一緒に大統領選に出馬すると宣言した時点から可愛さあまって憎さ百倍となったのはよく知られた話です。ルビオを推薦するどころか、撤退したとたんにオレはもう知らないから、とゴルフにでかけてしまったまま沈黙をまもっています。もう一人の撤退者、クリスティはトランプを支持。ぴったり寄り添って記者会見におよぶ様から、トランプはクリスティに副大統領のポストをオファーしたのでは、ともいわれています。このクリスティは反エスタブリッシュメントでこそありませんが、存在のえぐさではトランプといい勝負。クリスティはニュージャージー州知事ですが、メトロポリタンエリアでは誰もが知っているのがブリッジスキャンダルです。

クリスティはいわゆる鷹派の政治家ですが、もともとニュージャージーの中でもリベラルなマンハッタンに近いメトロポリタンエリアとはそりがあいませんでした。で、マンハッタンの向こう岸にあたるフォートリーという街の市長が言う事をきかなかったというんで、部下(しかもクリスティの幼馴染)が仕返しのためにマンハッタンとフォートリーをつなぐ橋のレーンを工事でもないのに閉鎖してしまったのです。通常でも混み合うラッシュアワーに何時間もの大渋滞を招いたあげく、そのために救急車の搬送まで遅れたといわれます。もちろんこっそりと行ったわけですが、これがバレて大騒ぎになりました。クリスティ本人は部下が勝手にやったことで知らなかったと言いはりましたが、そんな言い分が世間様に通用するわけがありません。要するに「マフィアかよ」みたいなダーティイメージがある政治家なのです。

今回の突然のトランプ支持も、ほんとに雰囲気はヤクザの権力争い。まず、クリスティには、こんなにがんばってんのにバックアップしてくれなかったというエスタブリッシュメントへの恨みがあります。そして「今、この予備選に勝てるのはトランプしかいない」というクリスティの言い分は正しい。「今、ヒラリーに勝てるのはトランプしかいない」という言い分も多分正しい。オレは勝つほうの馬にかけるぜ、一番のりだぜ、というクリスティの大勝負といったところです。これに続いてトランプ支持の国会議員もちらほらと出てきました。
一方、ルビオとトランプの戦いもほとんどチンピラのけんか。というか中学生のけんかレベルといわれています。トランプは討論会の場ですら、「リトル・マルコ」と侮蔑的な呼び方をし、耳がでかいの、汗っかきだのと、これまでの常識では公の場では有り得なかった身体的特徴をつかまえた悪口を連発。ルビオだって、負けてはいなくてトランプは「手が小さい」(手が小さいのは身体の他の部分も小さいという俗説がある)という下ネタ攻撃。これが品がないとメディアに不評で、優等生がトランプの真似しても効果はないことが判明したのでした。さらに討論会でトランプがそれをむしかえして反論。「保証する、ほら、おれの手は小さくなんかないぜ、ほかのところも小さくなんかないんだよ」。前代未聞のお下劣討論会。もうトランプは何をやっても平気。撃っても撃っても倒れない怪物状態です。

一方の共和党エスタブリッシュメントは、もうなりふりかまわず反トランプ・キャンペーン全開。マルコで挽回という案は、ほぼ実現不可能となった今、共和党エスタブリッシュメントのプランBは「トランプが過半数のデリゲートを獲得するのを阻止する」です。

予備選挙であるコーカスやプライマリーは、実は投票する候補が決まっているデリゲートを選ぶ形式的間接選挙ですが、選ばれたデリゲートが一堂に会して最終的に候補者を指名するのが7月の党大会です。この党大会の時点で正式な候補者となるには全デリゲートの過半数を獲得しなければなりません。過半数を獲得した候補がいない場合には、党大会で誰かが過半数になるまで投票を続けることになっています。最初の投票では投票する候補者が決められているデリゲートが2回目または3回目(州による)からは誰でも自由に投票できるようになります。つまり一からやりなおし。いったいあの長い予備選挙はなんだったのかと思わせるルールです。当然大混乱になるわけで、それを避けるために、万難を排して党大会までには候補をしぼっていくのが、これまでの常識でした。その常識が守られていたので、党大会の投票は形式的なもので、大統領候補宣言の場くらいに誰もが思っていたのです。共和党、民主党を含め、最後に党大会の決選投票があったのは1976年のフォード対レーガン、党大会の決戦投票で選ばれた候補が大統領になったのは1932年のフランクリン・ルーズベルトが最後といいますから、もう誰もが忘れていたようなルールです。今年はその決戦投票をあえて目指そうというわけです。

この反トランプ・キャンペーンの先頭に立っているのが2012年の大統領選でオバマに敗れたロムニーです。今になってロムニーが何をねらっているのか、というのもいろいろと詮索されています。
ブッシュとクリスティが撤退した時点では、勝ち目がないにも関わらず居残っていたケーシックは、共和党幹部から「ルビオのじゃまをするワガママ者」といわれていたのですが、こうなってくると手の平かえしたようにケーシック続投支持です。残る候補者の中で唯一、中道といえるケーシックは、ルビオやクルーズがとれない票の受け皿になるからです。

しかし、このプランBにも問題はたくさんあります。まず「8つの州獲得」ルールです。党大会で候補者として並ぶためには最低でも8つの州で勝っていなければならないというもう一つのルールがあるのです。トランプは既にクリア。が、ケーシックは無理、ルビオもまず無理、クルーズもあぶない。となると結果的に党大会にいけるのはトランプだけになりかねない。実はこのルールは前回の選挙で、エスタブリッシュメント推薦のロムニーの敵、ロン・ポールを妨害するために作ったものです。皮肉なことに今度はそのルールに縛られているわけです。

これに対する、共和党の戦法は、4月にある党の役員会でこのルールを廃止しちゃえ、というものです。後だしジャンケンみたいなもんですが、党のルールはこうやっていつもエスタブリッシュメントがその時の都合でころころ変えているのです。

民主党だって、そこは似たようなもので、今年の予備選挙では南部の州の日程が早くなっていますが、これは明らかに南部州に強いヒラリーをサポートするため。ちなみに、共和党は今回、フロリダ州の予備選挙の日程を遅くしていますが、これはジェブ・ブッシュを後押しするため。後半の予備選挙は勝者全取りという共和党のルールにのっとって、地元フロリダを勝者全取り州にしたのですが、今となっては空しい小細工となりました。

しかし、後だしジャンケンまでして、なりふりかまわず党大会決戦にもっていったところで、そこでトランプに勝てる保証はありません。1932年、1976年の党大会決戦投票のいずれも、もともとリードしていた候補が勝っています。悪あがきするほどにエスタブリッシュメントのずるさが露呈するだけです。

ロムニーに、詐欺師で危険人物である、と非難されたトランプは「2012年の選挙のときには推薦してくれ、って泣きついてきたから推薦してやったじゃないか」と反論。「エスタブリッシュメントはおれが共和党を破壊してるっていうけど、おれは支持者をたくさん集めて、誰よりも党を団結させてるじゃないか」というトランプの言い分もある意味正しい。トランプ支持者は、それぞれの思惑が複雑にからみあうエスタブリッシュメントより、よほど一致団結しています。崩壊しているのはエスタブリッシュメントのほうです。

民主党だって対岸の火事ではありません。この反エスタブリッシュメント攻撃は本選挙となったら、矛先はヒラリーに向かうに決まっています。トランプ本人が言うように、共和党候補の中でヒラリーに勝てる可能性が一番高いのはおそらくトランプです。民主党も、いまやトランプなら楽勝とは思ってはいないでしょう。ヒラリーの一番の売りだった「本選挙で勝てる可能性」もあやしくなってきました。その点では今や社会主義者であっても反エスタブリッシュメントのサンダースのほうが上という調査結果もあります。が、そもそも今年の選挙はあまりにも例外的な展開なので、調査や予想そのものがまったくあてになりません。どういう展開になるのか1週間先すらよめないスリル満点の選挙戦です。

 

広告

投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中