パブリシティ

今週は近くの学校区のハイスクールが全国ニュースに取り上げられて、娘たちが興奮しています。ヴァジャイナ(Vagina)つまり女性器名を学校の朗読会で朗読した生徒たちがdetention(謹慎処分)になったのが事の始まり。その生徒たちが朗読したのは「ヴァジャイナ・モノローグ」(Vagina Monologue)というフェミニズム系のオフブロードウエイ芝居です。女性の身体パーツの名称を学校が猥褻語のごとく扱うのは間違っているというので、生徒たちが処分反対運動を始め、当事者の親たちも学校に抗議したのが、最初はローカルメディアに取り上げられて、翌日にはニューヨークタイムズから全国放送のテレビニュースが一斉に報道。今朝は全国放映の朝のワイドショーに問題の子供たちが出演していました。学校側としては公開朗読会には幼い子供連れの人もいるかもしれないから、ヴァジャイナという単語は不適切である、と事前に通告したのに生徒たちが本番になって勝手に言ってしまったので、学校の指示に従わなかったことに対する謹慎処分であって、ヴァジャイナという単語を使用したのが理由ではない、と抗弁しているのですが、いまどき誰が見たって学校側に勝ち目はない。

実際にハイスクールの校長だって教師だって、ヴァジャイナなんてなんとも思っちゃいないにちがいないのです。ちなみにニュースでもワイドショーでもヴァジャイナ、ヴァジャイナと連呼しているくらいで、これは別に通俗語でもなんでもない女性器の正式名称なのですが日本語でいう膣よりも、はるかに一般語に近い。

では、なんで学校がそんな時代遅れともいえる対応をしたのかというと、これはもうコンサバ対策です。学校で使用した教材とか、学校で行われていることには「子供に不適切」という文句をつける親が必ずいて、しかもアメリカ人のコンサバ(特に信心深い人々)というのはこれはもうすさまじくコンサバです。いまだに裸婦の絵の展示されている美術館に生徒を連れて行ったというのでクビになる美術教師がいたりします。

 

で、前置きが長くなりましたが、面白いのは娘の反応。自分もなにか大学入学審査の足しになるような事を考えつきたいものだ、というのです。娘は8年生でこの9月からハイスクールですが、もうそのコース選択が始まっていて親も子供も考えることは「いかに大学入学審査に有利な選択をするか」です。アメリカの大学入学審査というのは成績および共通テスト(SAT)のスコアも大切ですが、一流大学となるほど成績オールAもSAT高得点も当然ですからその他の課外活動や社会活動の重要度が増してくる。逆に成績に問題ありの子供にとっては別の意味で「その他」の重要度は高い。

「ヴァジャイナ・モノローグ」(Vagina Monologue)の子供たちが大学入学審査を狙ってやったとは思えませんが、結果的に見ればアプリケーションにプラスになることは間違いない。娘いわく「少なくともエッセイ(入学審査の)のいいネタになる」のです。学校に反抗して謹慎処分になったことが大学入学に有利に働くっていうのもおかしなものですが、もうこれはマーケティングの世界です。この子供たちはネガティブパブリシティをポジティブに変えるパブリシティ戦略に成功したわけです。そう考えればSATのスコアより実用性において重要かも(ちなみにこの子供たちは全員がオーナーステューデント、つまり成績優秀者です)。

ワイドショーに出演していた子供たちは不当な扱いに抗議するなんて悲壮な感じはもちろんなく、「やったね」という感じではしゃいでいました。実は今朝は本当は、この件で校長と会う予定だったのだけど、テレビに出ることになったので予定を変更したのだそうです。学校側もこれを「けしからん」などといわずに、まあ、テレビならしょうがないよねという感じでリスケジュールして、取材にも積極的ににこやかに応じています。「こういうことについて話しあえる機会ができたことはよかった」などと最初のパブリシティ戦略失敗の挽回を狙う発言ぶり。

コンサバ対策をしたがために(きっとそっちの方面でも苦い経験をしてきているに違いない)、時代遅れの反フェミニスト扱いされてしまっている校長も気の毒といえば気の毒ですが、これはターゲット層のリアクションをよみ違えたのが悪い。なにしろニューヨーク郊外の公立ハイスクールの校長は年棒30万ドル(3千万円以上だよっ!)近い高級取りなんだから、その程度の手腕がなくてどうする、というわけです。それが教育者にとってどれほど重要なスキルであるかということは別として、アメリカで校長職をはっていくためにはすごく重要です。

アメリカの教育システムっていうのは、どうやって自分を売り込むかとか、どうやってそれらしく見せるかとか、どうやって世論を味方につけるか、といったことを常に考えざるをえないようにできているんですね。失言に失言を重ねて墓穴をどんどん深くして、最後には開き直るっきゃない日本の政治家がアメリカの政治家に太刀打ちできるわきゃないよなあ、と思います。

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投稿者: motokokuroda

アメリカ生活も四半世紀を超えました。お料理から政治まで、興味のおもむくままに。

“パブリシティ” への 2 件のフィードバック

  1. 何年も前になりますがテレビで女性器をどう呼んでますかというマジメな調査(確かNHK)で、以外にも「おちんちん」など男性器と同じ、という地域/家庭がある、という結果が出ていたのを思い出しました。男尊女卑というか女性がそういうことを語るのはよからん、というのが文化背景でしょうか。

    一昨年あたりから「エロかわいい」とか、日本では若い女性が「エロ」であることはファッショナブルであることになっているようで、それはそれでどうかな?と思うこともありますが、女性の性や肉体を否定するよかマシかなと。

    校長の年俸が高いのには驚きました。公立の一般教師の給与は低い、というのが常識かと元フロリダ住民としては思っていたのですが、校長となるとすごいのでしょうか。

    アメリカでは大学1年生で人前で話す Speech/Public Speaking が必須科目。5月、新入社員研修で半日、プレゼンススキルを語りながら英語できない人も救済するような授業を、と言われており、小さい時から個人事業者のようなアメリカ人と、判で押したような受け答えで最終面接突破したような大卒新入社員の両極端の間を取らなくてはないことは間違いありません。外資とはいえアメリカナイズする必要はないのですが、自分のスキルや経験アピールできないと会社が困るしなぁ、と悩んでます。

  2. ニューヨーク郊外の教師の給料は大変いいです。(ニューヨーク市はさほどでもない)。学区によっては平の教師の半数以上が年収10万ドル以上というところもあります。長い夏休みがあって残業とかなくて、素晴らしいベネフィットがついてこれですから、とくに子育てと両立するには最高の職業です。

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